白雪姫の強襲と想い
「やっぱり、来てましたね」
ひなたが来てから二時間ほどたった午前八時過ぎ、次は姫乃が家に訪れた。
まるで胸騒ぎがしたから急いで来たかのように息が荒い。
先日ひなたについて尋ねたのが気になっていたのだろう。
ちなみに休日だと麻里佳が来るのはもう少し遅い。
「何で邪魔するのかな?」
ひなたの顔が明らかに不機嫌になった。
嫌いな姉が来たのだから仕方ないかもしれないが、やはり好きな人が嫌われるのは嬉しくない。
いくら腹違いとはいえ、少しは仲良くしてほしいものだ。
「それはこっちの台詞です。タカくんは私と一緒にいる約束をしているんですよ」
まだ会って一分もたっていないが、既に仲が悪いのは分かる。
一方的にひなたが姫乃に意地悪するだけではないらしく、姫乃もひなたに対して言い返すようだ。
いや、今まではひなたが一方的に意地悪するだけだったが、これからは隆史に慰めてもらえるから言い返しているのかもしれない。
言い返さないでひなたに取られることこそ、姫乃にとっては一番避けたいことだろう。
「あなたといてもお兄さんは幸せになれないよ。私なら幸せに出来る」
「何を根拠に言っているのですか?」
確かにひなただからって幸せに出来る根拠はない。
あの姫乃が怒った顔をしているのだし、よほどひなたに渡したくないのだろう。
あくまで慰め合うだけの関係なのだが、姫乃にとっては大切なのだろう。
そうでなければあんなにキスをしないはずなのだから。
過去に何かされていて恐怖があるとしても、姫乃はひなたに対抗して隆史の側にいたいということだ。
本当にそう思っていたら非常に嬉しいが、あくまで慰めてもらいたいから一緒にいるのだろう。
「あのビッチの娘なんだから将来絶対浮気するでしょ? そうなったら誠実なお兄さんが可哀相だよ」
「浮気なんて絶対にしません。そもそもお母さんはビッチではないです」
「そんなわけないでしょ。婚約者がいる男を誘惑するなんてビッチ以外考えられないよ。そのビッチの血を継いでるんだから、あなたは将来ビッチになるよ」
「あり得ません。タカくんは私にとって最も大切な……いえ、最愛の人です。だからひなたには渡せません」
頬を赤くした姫乃が隆史にギュっとしながら放った言葉に心臓が飛び跳ねるくらいの喜びを一瞬だけ覚えたが、恐らくはひなたが一緒にいたから最愛の人と言ったのだろう。
そうでなければ最愛の人なんて口にしないのだから。
本当に思っていてくれたら幸せな気持ちなのだが、姫乃ほど沢山告白される女性がそう簡単に好きになるわけがない。
出会って一ヶ月くらいで好きになったとしたら、過去に彼氏がいたっておかしくないだろう。
「そうやっておっぱいを押し付けて誘惑するとこがビッチだよね」
確かに胸は押し付けられているが、誘惑しているわけではないらしい。
その証拠に「あう……」と恥ずかしそうな声が姫乃の口から漏れた。
あくまでひなたに渡したくないからくっついたのだろう。
「きっとあの女狐もこうやってお父さんを誘惑したんだろうね」
まさに今の姫乃と同じだよ、と言わんばかりの台詞だ。
でも、姫乃は絶対にビッチじゃないし、将来なるとも考えにくい。
そんなことはひなたも分かっているかもしれないが、奪うために色々と嫌味を言っているだけだろう。
「俺は何があろうとも姫乃と一緒にいるよ」
「んん……」
一緒にいる宣言をした隆史は、姫乃の唇を奪った。
もう体験したキスは何度しても気持ち良く、軽く甘噛みしたりして柔らかな唇の感触を味わう。
何度してもキスは良い。
「本当にお兄さんは変わってますね。奪略愛してほしいなんて」
そんなことは一度たりとも考えていないので、奪略愛なんてご遠慮願いたいのだが。
奪略愛なんて言っているものの、チラッと見えたひなたの顔は少し険しかった。
自分はしていないのになんでこの人だけが……と思っているのかもしれない。
「タカ、くん……んん、んちゅ……」
「まだキスしてる……三人でしようって誘いですか?」
絶対に違うからそんなことを考えないでほしい。
「お兄さんのファーストキスを貰えなかったのは残念ですが、次は私がお兄さんのキスを貰いますからね」
嫉妬していそうなひなたは、そう言い残して帰って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。