白雪姫のうなじは破壊力抜群

「タカくん、離れたくない、です」


 ひなたが帰った後、ソファーに座っている姫乃はさらに身体を密着させてきた。


 色々されたであろうひなたに勇気を出して反撃したのだし、相当恐怖はあったのだろう。


「分かった」


 よしよし、と優しく彼女の頭を撫でる。


 好きな人と一緒にいれるのは嬉しいし、何より安心させたいのだ。


 姫乃がそれを望んでいるのであれば、喜んで一緒にいる。


「じゃあ、泊まっても、いいですか?」

「いいよ」


 上目遣いで言ってくる姫乃のお願いを断るなんて無理で即答してしまった。


 既に泊まりはしているものの、未だに恥ずかしさはある。


 だけど泊まりを望んでいるのだし、恥ずかしさなんて気合いで吹き飛ばす。


 吹き飛ばし過ぎて暴走しないように気を付けないといけないが。


「ありがとうございます」


 おでこをグリグリ、と胸に押し付けてきながらお礼を言う姫乃が可愛すぎる。


 好きな人にこんなことされて嬉しくない人はいないだろう。


 自然に口角が上がっていくのが自分でも分かる。


 えへへ、という声が漏れているため、姫乃の口角も上がっているのだろう。


「その……タカくんの膝の上に座っても、いいですか?」

「いいよ」


 姫乃のお願いを隆史が断るわけがない。


 ポンポン、と膝を軽く叩いてあげると、姫乃は「失礼します」と太ももに座った。


 太ももが柔らかい感触に襲われるも、何とか我慢しつつ堪能はしっかりとする。


「式部さんっていつもポニーテールですよね?」

「そうだな」


 寝る時は別かもしれないが、基本的にポニーテールだ。


「ちょっと失礼しますね」


 前屈みになった姫乃は、両手を使って髪を一つに纏め始める。


 いつもはないはずの今日は何故か左手首にある水色のシュシュを取って髪をポニーテールにした。


「どう、ですか?」


 普段は見られないポニーテールの髪を手に取っている姫乃は、わざとうなじを見せているかのようだ。


「可愛い……」


 自然と口にしてしまった。


 初めて見る姫乃のポニーテールは、いつもしている麻里佳のポニーテールと破壊力が段違いだ。


 可愛いと言われて恥ずかしくなったのか、姫乃の口から「あう……」という声が漏れた。


 昔から可愛いなどと言われ慣れているだろうが、信頼している隆史から言われて嬉しくなったのだろう。


「その、匂いとか大丈夫ですか? 朝はいつもシャワーを浴びますけど、今日は走ってきたので」


 確かに長い髪で隠れているうなじは匂いが付きやすいのかもしれない。


 女性は異性の前では匂いを気にしてしまう生き物なのだろう。


「大丈夫だよ」


 嫌な匂いどころか甘い匂いのせいで理性が削られていく。


 このままうなじにキスしてもいいくらいだが、流石にいきなりしたら良くないだろう。


 だけど無防備なうなじを見れば、キスしたいという衝動が襲いかかる。


「さっきからタカくんの視線がうなじに感じます」

「そりゃあ普段見れないから」


 好きな人の普段見れないところを見れるのに、視線を逸らすなんて無理な話だ。


「タカくんがしたいことを……してもいい、ですよ」


 本能を揺さぶるような言葉だった。


 したいことをしていいなんて姫乃の口から聞けるなんて思ってもいなかったが、無理矢理してこないと分かっているから言ったのだろう。


「いいの?」

「はい。私はタカくんがいたからひなたに対抗出来ました。タカくんがいなかったら怯えて言葉も出なかったでしょう」


 やはり過去に相当酷いことをされた……いや、言われたのだろう。


 だからこそ屋上で女子たちに虐められ、過去を思い出して泣いたようだ。


「俺は何もしてないよ。勇気を出したのは姫乃自身だ」


 ギュっと優しく姫乃を抱きしめる。


 一緒にいたからというのもあるかもしれないですねもしれないが、一番は姫乃が頑張ったからだ。


「それでもです。タカくんがいるから私は勇気を出せました」


 姫乃の温かな手が自分の手に重なる。


 もしかしたら傷ついても慰めてもらえる、と思っているのかもしれない。


 元から慰め合う契約なのでするのだが。


「私はタカくんに支えられてます。そのタカくんが望むことはなるべくしてあげたいです」

「じゃあ、その……うなじに、キスしてみたい」

「うなじに? タカくんが望むなら」


 一度手から離したポニーテールを再び持った姫乃は、「いいですよ」と恥ずかしそうに口にした。


 今は顔が見えないからハッキリと分からないが、恐らく真っ赤にしているだろう。


 じゃあするね、と口にした隆史は、ゆっくりと姫乃のうなじへと顔を近づけていく。


「あ……」


 うなじに唇が触れた瞬間、姫乃の口から甘い声が漏れた。


(理性がヤバい)


 特に甘い匂いが強いうなじが近いため、普段よりゴリゴリに理性が失われていく。


 ただ、ずっと離れられないと思った瞬間でもあった。

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