白雪姫の想い
「思わず帰って来ちゃいました……」
つい先ほどまで隆史の家にいた姫乃は、耳を甘噛みされて恥ずかしくなって自分の家に帰ってきてしまった。
外出用の服から部屋着に着替えずに自室のベッドに倒れ込む。
甘噛みされたことなんて生まれて初めての経験で、身体が熱くなって心臓が破裂しそうなほどに激しく鼓動していた。
「不思議と、嫌ではなかったんですよね」
未だに熱さを感じる顔を枕に埋もれさせて呟く。
一番信頼している隆史にされたからなのか不思議と嫌な気持ちはなく、恥ずかしくなかったらもっとして欲しかったのかもしれない。
でも、恥ずかしさが限界に来てしまい、思わず家を飛び出してしまった。
「また一緒にいてくれますよね?」
家を飛び出した後に送ったメッセージにはきちんと返信があり、一緒にはいてくれるとのこと。
一緒にいてくれるのは良かったが、もし、逃げてしまったことで嫌われてしまったらどうしよう? という不安が頭をよぎる。
「一緒にいれなくなったら嫌、です」
自然と目尻が熱くなってくるのを感じ、姫乃は隆史がいないとダメなのかもしれない、と実感した。
見た目に関しては今まで告白してきた中の人の方がカッコよかったりしたし、隆史の見た目は良くて中の上だろう。
でも、傷心してる時に慰めてもらったからか、今の姫乃は隆史のことで頭がいっぱいだ。
「式部さんが羨ましい……」
現在隆史が想いを寄せている相手の式部麻里佳が本当に羨ましく、出来ることなら立場を交換してほしい。
付き合う気がないのであれば必要以上に絡まないでほしいし、あのままであれば隆史が麻里佳を諦めるのが難しくなる。
式部麻里佳ではなくて自分に甘えて欲しい……姫乃の頭はそんな想いで支配された。
「こんなにもタカくんのことを考えてしまうのってもしかして……」
これが恋なんじゃ? と思うとさらに身体が熱くなり、恥ずかしさで足をジタバタ、と上下に動かす。
まだ話すようになってから一週間もたっていない人に恋をするなんてチョロい……そう思わずにはいられなかった。
一緒にいて分かったことがあり、隆史は幼馴染みの麻里佳がいるのに異性との触れ合いを恥ずかしがるタイプだ。
だからこそ下着姿の姫乃を抱きしめても襲いかかるようなことがなかったし、一緒にいて安心させてくれるのが隆史のいいところ。
一緒にいると安心してしまうから短期間でこうも気持ちが揺らいでいるのかもしれない。
「この気持ちが恋でも、叶いません」
目尻に貯まっていた涙が溢れてくるのを感じた。
今のままでは完全に片想いで、しかも最悪の三角関係になり、勇気を出して告白してもフラれるのがオチだ。
しかも隆史の幼馴染みである麻里佳とは違って、もしフラれてしまえば今の関係は確実に終わる。
しかも関係が終わればまた女子たちに虐められる可能性があり、姫乃にとってはデメリットしかない。
「タカくんと一緒にいれなくなるのは、嫌です」
一番信頼出来る隆史と一緒にいれなくなるのは何としてでも避けなけれなならないことだ。
虐められなくなることもあるのに加えて、一緒にいたい気持ちが強いから。
虐められるという最悪の気持ちの時に現れた隆史は姫乃にとって光であり、安らぎを感じる温かさもある。
先ほど甘えられたいと思ったのも、姉のような存在である麻里佳に甘えてほしくないと心の奥底で考えていたからなのかもしれない。
「こうなったら私からアタックするしか……」
恥ずかしい気持ちはあるものの、隆史に麻里佳を諦めてもらうには自分からいくしかないだろう。
どうやら隆史は甘えられる相手が好きなようなので、慰めを言い訳にしてくっついて貰えばいい。
そうして意識してもらってから麻里佳を諦めてくれたらさらにアタックしていく……そうすれば好きになってもらえる可能性がある。
「式部さんには絶対に負けません」
一緒にいられなくなるのを避けるため、姫乃は恥ずかしくても少し……ほんの少しだけ積極的になってみようと思った。
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