幼馴染みも甘えたい

「あれ? 白雪さんは?」


 午後二時過ぎ、家族でご飯を食べてきたであろう麻里佳が家まで来た。


 リビングにいない姫乃のことが気になるのだろう。


 フった相手の家に合鍵を使って普通に入ってくるのが凄い。


「帰ったよ」


 甘噛みされたことで恥ずかしさのキャパがオーバーしてしまったようで、終わった後に「今日は帰ります」と言って頬を赤くして帰ってしまった。


 ただ、『嫌ではなかったので明日からも一緒にいてください』とメッセージが来た。


 今日は恥ずかしすぎて一緒にいられなくなっただけらしい。


 隆史もさらに恥ずかしくなり、姫乃が帰った後ですら身体が熱くなっている。


 冷房を付けたい気分だが、この季節に付けるのはよろしくない。


「たっくんの顔が赤い。恥ずかしいことでもしちゃった? それともされちゃった?」


 やるやないか。このこの〜、と頬を指でつつかれた。


 先ほど甘えてくれなくなるかもしれない、と少し寂しそうにしていた麻里佳だが、そういうわけではないと分かってからはいつものテンションだ。


 基本的に麻里佳は隆史の姉としていられればいいようなので、他の女子と一緒にいても問題ないらしい。


「憶測で言わないで」


 実際に恥ずかしいことをしているが、知られたくないから言わないでおく。


 耳に甘噛みしたと聞けば、確実に「エッチだよ」と言われるのだから。


「黙っているのはこの口かな?」

「知らん。あむ」

「ひゃあ……」


 少ししつこいから唇に指を当てて来た麻里佳の人差し指を甘噛みしたら、彼女の口から甘い声が漏れた。


 いきなりのことで驚いて出たのだろう。


「たっくん、私にはお姉ちゃんだからこういうことしても許されるけど、白雪さんにしたらダメだよ」


 何で顔を赤くしているのかすぐに見抜かれてしまった。


 流石は幼馴染みだ、と思わずにいられない。


「二人は慰め合う関係なんだからあまりエッチなことをしたら白雪さんに嫌われちゃうよ。だから過剰に甘えたい時は私を頼りなさい。えい」

「うぶっ……」


 指を口から離した瞬間に麻里佳の胸に顔を埋めさせられた。


 腕によってしっかりと顔を抑えられているため、多少の力では抜け出すことが出来ないだろう。


 いつもはここまでしないはずなのにしてきたということは、少しだけ姫乃に嫉妬しているのかもしれない。


「私はいつまでもたっくんのお姉ちゃんなのです」


 よしよし、と頭を撫でてきた麻里佳の声から少し寂しさが伝わってきた。


 姫乃と一緒にいることは同情して容認出来るが、心情的にはあまりしてほしくないのかもしれない。


 姫乃がいるとお姉ちゃんがお姉ちゃんでいられなくなる……そんなことを思っているのだろう。


 付き合えないのに姉としてはいたいという我がままっぷりを発揮している麻里佳の胸は姫乃ほど大きいわけではないが柔らかく、しかもとても良い匂いだ。


(俺もダメダメだな)


 二人の女の子に甘えさせてもらっているため、隆史は自分がクズだ、と思わずにいられなかった。


 失恋してしまっても、たとえ一緒にいるのが辛いとしても、好きな人と一緒にいたい気持ちはある。


 少し気持ちの変化があったが、やはり麻里佳と触れ合うと気持ちが揺らぐ。


 諦めないといけないのは分かってはいるものの、こんなことをされては諦めきれなくなる。


 フラれても好きな人に甘えさせられては諦められなくなるだろう。


「たっくんに甘えられるのキュンキュンしちゃうよぉ」


 キュンキュンするのは勝手だが、半ば無理矢理されたから甘えているわけではない。


 姫乃を帰してしまったのは間違いなく失敗だった。


「昨日は寂しかったから今日は離してあげない。沢山お姉ちゃんに甘えて?」


 ギューっとさらに力を入れてきた麻里佳に、隆史は晩ご飯を作る時間になるまで無理矢理甘える羽目になった。

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