白雪姫とカラオケデート、間接キス

「カラオケで良かったか?」


 駅前のカラオケ店に入った隆史は、改めて一緒にいる姫乃に聞いた。


 虐められて人に恐怖を覚えてしまっているっぽいから、なるべく人と会わない所がいいよ、と麻里佳に言われてカラオケにしたのだが、もしかしたら不満があるかもしれない。


 笑顔で大丈夫です、と言ってくれたものの、異性と二人きりの状況であるのは変わりないため、きちんと聞いた方が良いだろう。


 既に家で二人きりになってはいるが。


「大丈夫ですよ。私のことを思ってカラオケにしてくれたんですよね」


 何でカラオケにしたか分かっているかのような口ぶりだった。


 麻里佳に言われてカラオケにしたのは何となく内緒にしておく。


 人とあまり絡むことのない漫画喫茶も候補に上がったが、アニメなどをあまり知らない、とこの前言っていたのでカラオケにすることにした。


「じゃあ歌おうか」

「はい」


 フリータイム、ドリンクバー付きで入った隆史は、受付前にあるドリンクサーバーから持ってきたお茶をテーブルに置いてソファーに座る。


 家のソファーより若干固いが、そこまで気になるものではない。


「隣、いいですか?」

「もちろん」


 休日のカラオケに二人で入って広い部屋に案内されるのは稀なのだし、必然的に距離は近くなる。


 一応、テーブルの向かいにもソファーはあるのだが、何故か姫乃はポーチをテーブルに置いて隣に座ってきた。


「ちなみに俺はアニソンばかり歌うけど大丈夫か?」


 アニメを見るから自然と聞く音楽はアニソンとなり、カラオケに行くとアニソンばかり歌う。


「大丈夫、ですよ。タカくんが歌う曲を、知りたいです」


 ちょん、と手の甲に指先だけ触れてくる。


 虐められたうえ家では一人のため、寂しい気持ちがあるから触れてきたのだろう。


「分かった。有名なアニソンもあるし大丈夫かな」

「そうですね。有名な曲であればある程度私も分かりますよ」


 昔のアニソンは違っていたみたいだが、最近のアニソンは有名な歌手が歌ったりする。


 それに声優自体も最近テレビやネットで顔出ししているし、アニメに詳しい人とかじゃなくても多少はアニソンを知っているだろう。


 隆史自体は幼い頃からアニメを見てアニソンも聞いていたため、他の人に比べて詳しい。


 あくまでオタクじゃない一般の人と比べてであり、重度なオタクの知識には敵わないだろう。


 隆史はデンモクで曲を選び、アニソンを歌った。


☆ ☆ ☆


「美味しそうですね」

「そうだな」


 しばらく歌った後、隆史と姫乃はお昼時になったからご飯を食べることにした。


 隆史が頼んだのはチャーハンとフライドポテトで、姫乃はシーザーサラダだけだ。


 フライドポテトは二人で分けて食べるし、華奢な体躯な女性にはサラダとポテトだけで足りるのだろう。


 いただきます、と両手を合わせて言い、二人してご飯を食べ始める。


「美味しいな」

「そうですね」


 恐らくチャーハンもポテトも冷凍物なのだろうが、きちんと味付けされていてとても美味しい。


 シーザーサラダもレタスやトマト、クルトンにかかっているドレッシング、上に添えてある温泉卵も美味しそうだ。


「食べ、ますか?」

「……へ?」


 サラダをフォークに刺した姫乃は、隆史の口元にそれを持ってきた。


「あ、あーん」

「じ、自分で食べれるから」


 もう風邪は治っているのだし、前みたいにあーんってして食べさせてもらう必要はない。


 恥ずかしさで身体が熱くなるのを感じて断るが、何故か姫乃はフォークを口元から退かさなかった。


「タカくんはスプーンですので、サラダは食べにくいと思います。前にサラダを食べてましたし、嫌いではないですよね」

「確かに嫌いじゃないが……」


 このフォークに口を付けたら間接キスになってしまい、幼馴染みである麻里佳とするのとは訳が違う。


 そもそも思春期になってからも間接キスを体験したことはなかったし、恥ずかしい気持ちすらない。


 恐らく姫乃は純粋にスプーンじゃ食べにくいからしてくれてるだけであり、間接キスになることすら気付いていないだろう。


「あーん」


 食べてほしそうな顔をしていたので、隆史は恥ずかしい気持ちを抑えながらサラダを食べた。


 シャキシャキしたレタスにシーザードレッシングと温泉卵が合わさってとても美味しい。


「じゃあ、お返し」


 こういうのは恥ずかしいことだ、と教えるために、隆史はチャーハンをスプーンですくって姫乃の口元に持っていく。


 あーんってされれば恥ずかしいと実感が湧くだろう。


 今までもした後に恥ずかしくなっていたのだから。


 他の人には気づかなくてもしなそうだが。


「あ、あーん……」


 実感頬が赤くなっている姫乃は、口元にあるチャーハンを食べた。


 もぐもぐ、食べているのが小動物みたいで可愛らしい。


「あっ……これって間接キスでは?」


 チャーハンを飲み込んだ姫乃の頬が真っ赤に染まる。


 恐らく間接キスすらしたことないであろう姫乃には刺激が強いのだろう。


「その、ごめんなさい」

「だ、大丈夫」


 お互いに恥ずかしさで反対側を向き、しばらくご飯を食べれないのであった。

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