白雪姫と手を繋ぎながらお出かけデート
「まさか遊びに誘われるなんて」
Vネックのシャツの上に紺色のジャケット、ジーンズを着ている隆史は、とあるマンションの前で緊張から息を飲んだ。
昨日の夜の……金曜日に姫乃から遊びに誘われ、これから二人きりで一緒に出かけるのだ。
話すようになってから一週間もたっていないのに誘われるとは思ってもいなかった。
男女二人きりだからデートと言えなくはないかもしれないが、姫乃からしたら『いっぱい慰めてくれたお礼』なのだろう。
二日間慰めてあげただけで逆に慰めてもらったりご飯を作ってくれたり看病してもらったり、とこちらの方がいたれりつくせりの状況だからお出かけしなくてもいいのだが、何か断れない雰囲気だったから了承した。
風邪に関しては一日で熱が下がったし、出かけるのは問題ない。
むしろ麻里佳から『体調良くなったなら白雪さんとなるべく一緒にいてあげなさい』と言われたくらいだ。
プランまで立てようとしたくらいで、虐められた姫乃に同情しているのだろう。
「ふうー……」
時刻は十一時の少し前、深く息を吐いた隆史は、姫乃が住んでいるマンションへと入っていく。
駅前の待ち合わせだと人が多くて大変だし、姫乃ほどの美少女がいたらナンパにあってしまう。
そういったことを避けるために隆史が姫乃の家に行くことにした。
マンションの入口はオートロックだから姫乃が住んでいる部屋番号である三〇ニと呼び出しボタンを押してインターホンを鳴らす。
『はい』
「高橋だよ」
『お待ちしてました。すぐに行くので待っていてください』
分かった、と伝えると、通話が切れた。
「お待たせしました」
数分ほど待っていると、エントランスから姫乃が出てきた。
いかにも春物と思わせる花柄のワンピースは清楚な姫乃にとても似合っており、ウエスト部分にはゴムがついているためなのか、彼女の腰の細さが分かる。
以前に下着姿を見て細いのは分かっているが、ここまで細いとひょんな事で折れてしまうんじゃないか? と思うくらい心配になった。
滅多に折れることはないだろうし、強く抱きしめても大丈夫だったが。
「どう、ですか?」
姫乃はワンピースの裾を手に取ってくるり、と一回転して頬を少し赤く染めながら、上目遣いで聞いてきた。
(こんなの反則だ)
清楚なワンピースの丈は膝下まであるものの、裾を掴んだことで白い太ももがチラッと見えた。
下着姿で全面の太ももが見えるより、チラッと少しだけ見える方が心臓に悪いのは何故だろうか? と疑問に思う。
それにピンクの肩かけポーチのせいで胸元が少し強調されているため、目のやり場に困った。
「似合わない、ですか?」
「そんなことないよ。とても似合ってる」
不安そうな顔をした姫乃に、きちんと似合ってると伝える。
実際に似合っているため、落ち込む必要はない。
「ありがとう、ございます」
褒められて嬉しかったのか、感想を求めてきたのに頬を真っ赤にして下を向いてしまった。
可愛いなどとは言われ慣れていそうなものだが、もしかしたら私服姿は褒められ慣れてないのかもしれない。
お洒落じゃないから褒められないわけではなく、異性の前で私服姿になる機会が少なかったからあまり褒められたことがないのだろう。
「じゃあ、行こうか」
「はい。でも、その……」
出かけるために歩き出そうとしたことろ、何故か姫乃がモジモジ、と手足を上下に動かし始めた。
頬も赤く、どうやら恥ずかしがっているらしい。
「その……良かったら、手を繋ぎながらに、しませんか?」
「手を?」
かあぁぁ、と身体が熱くなるのを感じた。
麻里佳と手を繋ぐのには慣れてはいるが、姫乃と手を繋ぐのはかなり恥ずかしい。
手を繋ぐ以上のことをしているものの、あくまで慰める行為と今では違う。
「はい。私を虐めた女子たちに会う可能性があるかもなので」
「確かに……」
駅前はこの辺で色々な商業施設が揃っているため、遊びに行くなら大抵駅前になる。
だから、もし会った時のためにデートに見せかけたいのだろう。
手を繋ぎながら男女が歩いていたらデートに思われる。
遭遇する可能性はかなり低いが。
「わ、分かった」
恥ずかしくはあるものの、姫乃の提案を受けることにした。
少しの可能性ではあってもゼロではないのだし、手は繋いだほうがいいだろう。
「姫乃?」
「こっちの方がデートに、見られます」
普通に手を繋ぐだけだと思ったが、まさかの指を絡め合うように繋いできた。
手から姫乃の体温が伝わってきて、隆史はさらに恥ずかしくなる。
いつも麻里佳と手を繋ぐのは訳が違う、清楚で初々しい姫乃と繋ぐのは心臓がドキドキしてしまうのだ。
驚き隠せない隆史の横で、恥ずかしそうにしながらも姫乃は「えへへ」と笑みを浮かべる。
いかにも一緒に出かけられて嬉しそうに見えるが、あくまでお礼なのだろう。
「じゃ、じゃあ、行こうか」
「は、はい」
お互いに恥ずかしそうにしながらも、隆史はしっかりと姫乃をエスコートするように歩き出した。
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