白雪姫とお家デート
「今日は、タカくんの家に行っても、いいですか?」
服もしっかりと乾き、きちんと身だしなみを整えた姫乃からの提案だった。
一人になったら虐められたことを思い出して悲しくなってしまうからだろう。
信用出来る人と一緒にいて寂しさをまぎわらしたいというところだ。
まともに話したのは昨日が初めててはあるが、やはり慰めたことが大きい要因だろう。
心に傷を負ったところに優しくされたら、基本的に人は心を開く。
狙ってやったわけではないものの、隆史自身も傷ついていたから姫乃と一緒なのは嬉しい。
麻里佳と話すことは出来るが、まだ辛さはあるのだ。
こちらとしても姫乃と一緒にいられるのは有り難いことだった。
「いいよ。行こうか」
「はい」
一緒にいれて嬉しいそうにはにかんだ姫乃は、隆史のブレザーの袖をギュっと掴む。
服が乾く頃には放課後になっていたため、このまま一緒に帰ることにした。
☆ ☆ ☆
「ど、どうぞ」
「お邪魔、します」
自分が住んでいる家についたので、隆史は姫乃をリビングまで招き入れる。
3LDKの家族向けのマンションに住んでいるものの、両親は出張でいないので基本的に一人だ。
隣に住んでいる麻里佳が料理を作りに来てくれるが、ずっと一緒にいるわけではない。
あくまでご飯を作りに来てくれたり、休日に掃除を手伝ってくれるだけだ。
家では一人でいることが多いため、スマホでアニメを見たり、漫画を読んで過ごしている。
しかし、今は麻里佳以外の女の子が自分の家に来ているので、隆史はこれ以上ないくらいに緊張していた。
心臓がドクンドクン、と激しく早く動いており、恥ずかしすぎて止まってしまうんじゃないかと思うほどだ。
恐らく姫乃も同じようで、頬を真っ赤にしてリビングまで入って来た。
少なくとも思春期になってから異性の家に来たのは初めてなのだろう。
でも、初めてだとしても、今は誰かと一緒にいたい気持ちが強すぎて来たようだ。
隆史も水をかけられるほどに虐められたとしたら、信用している人の側にいたくなる。
「ソファーに座って。温かい紅茶出すから」
「は、はい……」
緊張からか少し動きがぎこちない姫乃をソファーに座らせ、隆史はキッチンに行ってケトルに水を入れて温める。
昔はポットで温めていたから少し時間がかかったが、ケトルだと一分もあればお湯が出来て楽だ。
水に濡れてしまった姫乃は体温が下がっているし、今はアイスよりホットの方がいいだろう。
「スーパーのティーバッグで申し訳ないけど」
カップにお湯を注いで紅茶のティーバッグを入れて姫乃に差し出す。
もし、姫乃が家に来ると事前に分かっていれば、もう少し高級の紅茶を買っていたかもしれない。
「ありがとうございます」
カップを受け取った姫乃は、早速紅茶を口にする。
「タカくんが入れてくれていたからか、優しい味がします」
ニッコリ、と姫乃は笑みを浮かべて紅茶を美味しそうに飲んでくれる。
スーパーで買った安物のティーバッグ、しかもただ入れただけなのに優しい味がしたと言ったのは、慰めてもらった影響が大きいのだろう。
そうでなければ優しい味付けなんて言わないはずだ。
「何かお家デート、みたいだな」
「ぶぶぅー……」
予想外のことを言われたからか、姫乃は口にした紅茶を壮大にぶち撒けた。
彼女の反応を見て、隆史自身も恥ずかしくなってしまい、何で言ったのか不思議に思う。
「すいません」
盛大にぶち撒けた紅茶はテーブルを汚してしまい、姫乃は近くにあるタオルで拭いていく。
「俺もごめん……」
不適切な発言をしたと頭を下げる。
あくまで姫乃は一人だと辛いから来ただけであって、デートは望んでいないだろう。
初デートは好きな人としたいと思うのが普通だ。
「今思うと、私はタカくんと物凄く恥ずかしいことをしてますね」
「そうだな」
テーブルを拭き終わったら姫乃の言葉に、隆史は頬をかきながら頷く。
昨日は胸に顔を埋めて慰めあったし、今日は下着姿の彼女の身体を拭いたり抱きしめた。
恋人同士でない異性間でやることではないだろう。
仲の良い麻里佳ともしたことがないのだから。
「でも、タカくんにデートと言われて、嫌な気分はしなかった、です」
服を掴みながら上目遣いで言ってくる姫乃は破壊力抜群だった。
男子にラブコメアニメのヒロイン並に人気がある姫乃は、恐らくデートに誘われたことくらいはあるだろう。
でも、他の人にデートに行こう、と言われても嬉しく感じなかったようだ。
(勘違いしそうになるから止めてくれ)
身体が熱くなるのを感じ、隆史は心の中で叫ぶ。
今までデートや告白を全て断ってきたであろう姫乃に嫌じゃないと言われれば、勘違いしたっておかしくないだろう。
学校一の美少女、白雪姫と言われる姫乃が、アニメ好きの、しかも麻里佳に告白したと言った隆史を好きになるはずがないから、そんなことを言わないでほしい。
だから隆史は勘違いしない。
今は虐められた恐怖が襲っているため、姫乃は慰めてくれた隆史と一緒にいるのが心地良いだけだろう。
虐められなくなって時間がたてば自然と一緒にいる時間は少なくなるはずだ。
若干残念ではあるのもも、虐められなくなったら一緒にいる理由がなくなる。
だからって虐められてほしいわけではなく、虐められなくなった後も、たまにはこうして一緒にいてほしい。
麻里佳は毎日家に料理を作りに来るだろうから、姫乃がいるだけで助かるからだ。
そんなことを思いながら、隆史は未だに腕を掴んでくる姫乃の隣に座った。
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