白雪姫の膝枕と連絡先
「タカくんに、お礼がしたいです」
ホットの紅茶を飲み終えた姫乃が、隣に座っている隆史を上目遣いで見つめてきた。
昨日もそうだったが、どうやら姫乃は借りはきちんと返さないと気がすまない性格をしているらしい。
根が真面目だからだろう。
「別にいいのに」
お礼をしてほしいから慰めたわけではなく、単に悲しそうにしている女の子を放っておけなかったからだ。
それにフラれたとはいえ、まだ麻里佳が好きだから傷心の女の子を慰めていずれは恋人同士に……なんてことも思っているわけではない。
まだ失恋の傷が癒えていないため一緒にいられるのは嬉しいものの、隆史自身お互いの傷が癒えたら姫乃との交流が今ほどあるわけではないと思っている。
全く無くなるとは考えていないが、少なくともこうして家で二人きりになることはないだろう。
「いえ、お礼をさせてください」
ちょこん、と指先だけを軽く手の甲に触れてきた姫乃はとても初々しく、普段は異性に気軽に触れたりしないはずだ。
校舎の屋上での出来事は、かなり傷付いてしまったことによる人肌を求めてしまったのと、自身の体温を上げるため。
本来、異性と触れ合いをしないのだし、指で触れるのが精一杯だろう。
そこまでしてでもお礼がしたいということだ。
「分かった。ありがとう」
青い瞳には真剣さがあったので、隆史は姫乃のお礼を断らないことにした。
昨日と同じようにご飯を作ってくれるのであれば、屋上での出来事みたいに恥ずかしがることはない。
「ありがとうございます。では、どうぞ」
そう言った姫乃は、何故か自分の太ももをポンポン、と軽く叩く。
頬を赤く染めている姫乃を見つつも、隆史は何で自分の太ももを軽く叩いたのか分からずにフリーズする。
「タイツを脱いだ方が、良かったですか?」
「いや、何が?」
何をしてくれるのかの説明が完全に抜けてしまっているため、今の姫乃が何をしているのかさっぱり分からない。
「その……膝枕が嫌いな男の人はいない、と聞きました……」
消え入るようなほどに小さい声なだったが、要はお礼として膝枕をしてくれるということだ。
髪の隙間から見える耳まで真っ赤なのは、今まで膝枕をしたことがないからだろう。
「確かに滅多にいないだろうが……」
隆史自身もアニメで主人公がヒロインに膝枕をしてもらうシーンを見て、自分もしてほしいなと思ったことがある。
だからと言って膝枕は恋人同士でするものなので、幼馴染みの麻里佳にも頼んだことがない。
それなのにまともに話すようになってから二日しかたっていない姫乃に膝枕をさせてもいいのだろうか?
向こうからしてあげると言ってくれているとはいえ、実際にしてもらうとなると何故か気が引ける。
「本来、タカくんは式部さんにしてほしいのでしょうけど……」
少し悲しそうな姫乃を見て、なぜ気が引けるか分かった。
やはり好きな人にしてほしいからだ。
諦めるとは決めているが、まだフラれてから一日しかたっていない。やはり麻里佳に膝枕をしてほしいのだ。
恐らく告白していない状態で麻里佳に膝枕をしてあげると言われていれば、喜んでしてもらっていただろう。
「私の膝枕じゃ、お礼になりませんか?」
「いや、そんなことはないよ」
してもらうのに気が引けるとはいえ、美少女の膝枕はご褒美に値する。
「お望みであれば、な、生足でして差し上げ、ます」
「ぐはぁ……」
吐血しそうなくらい破壊力抜群の一言だった。
「い、今の俺には刺激が強すぎる……」
麻里佳はタイツをはかずに靴下だから制服だと太ももが見えているからここまでのダメージはないが、普段からタイツで隠してる姫乃の生足での膝枕は流石に耐えられるものではない。
してあげるの一言でこちらまで恥ずかしくなってしまう。
「その、タイツをはいたままでお願いします」
「分かりました。どうぞ」
膝枕自体はどんなに言ってもさせようとするだろうから、隆史は恥ずかしながらもゆっくりと姫乃の太ももに頭を載せる。
恐らくは提案した姫乃の方が恥ずかしいようで、口から「あう……」と声が漏れた。
(何この柔らかさ?)
膝枕が嫌いな人はいない、と言われるだけあり、隆史は姫乃の太ももを思わず堪能してしまう。
モデルのような細い足にも関わらず弾力があり、膝枕が嫌いな人がいたらアホなんじゃないか? と思ってしまうほどだ。
「その……どう、ですか?」
「一言で言うと最高」
未だに恥ずかしさはあるものの、最高以外の言葉では言い表わせられなかった。
「なら、良かったです」
えへへ、と笑みを浮かべた姫乃は破壊力抜群で、本当に好意を持たれているんじゃないか? と勘違いしそうになる。
いや、こうして膝枕をしてくれているから全く好意がないわけではないだろうが、恋愛感情とは別だろう。
「その……これから一緒にいるわけですし、連絡先の交換を、しませんか?」
「そういえばしてなかったな」
今までお互いに面識はあったものの話すようになったのは昨日なので、もちろん連絡先は知らない。
「はい。寂しくなったら呼んでしまうかもしれませんが」
「それくらいなら大丈夫だよ。家も近いからすぐ行ける」
「ありがとうございます」
お互いにスマホを取り出し、連絡先を交換した。
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