Legend3,『スケアリエリー』
:グウェンのことを話してくれないか……?
:無駄だよ。エリーが俺たちのコメントを読んだことが、一度だってあったかい?
:[不適切なコメントは削除されました]
:エリー、大変な時期だと思うけど頑張ってね。
:スパイディやめてこっちに来た
:箱推しだから関係ない。
:いつだってエリーが一番だよ
:[不適切なコメントは削除されました]
:君もドラッグをやってるんだろう?
:他の配信者の名前を出すな。リテラシーって言葉知ってるか?
:予想通り、マナーの欠片もないコメントが多いな。
:すべてドラッグ疑惑のせい
:最低限のコメントルールは守れよ。3歳児か?
:3歳児に失礼過ぎて草
『orion unite』の一人。エリキュール・コロンボ、通称エリーの配信。視聴者のコメントは、グウェンに対する疑念と失望、事件に対する非難がほとんどになっている。同じグループ内で、メンバーの一人にドラッグ疑惑が上がったのだから、それも当然と言える。ただ、度が過ぎたコメントも多く、誹謗や中傷と言えるコメントも散見されていた。
中にはKワードやFワードもあるようだが、それらのコメントは配信サイト側で規制がかかるようになっている。
この配信サイトには配信者権限で特定の視聴者をコメントできないようにする機能も搭載している。
エリーがそれを使用したことはないが。
彼女の配信内の特徴として、極端にリスナーのコメントを取り上げないというものがある。
配信者、特にライブ配信を多用する者であれば、配信中のコメントを取り上げるということは、ひとつのスキルとして必須のものだ。そのスキルだけで登録者数や再生数を伸ばす配信者も少なくはない。
それは視聴者と配信者のコミュニケーションを生みだすだけでなく、配信内容に関わらず、更なる面白さや魅力を生み出す可能性があるからだ。海外で言うジョークや、日本で言うボケとツッコミ、大喜利のようなものになることも多い。ネタバレにならない程度のゲーム攻略のヒントや、偉そうに見えない程度の知識の享受など、理解していない者も多いが、コメントをする方に求められる技術も少なからずある。
しかしながらエリーは、そんなものは必要としていない。
自身の面白さは自身だけが理解していればいいし、自分が楽しいから配信や動画作成をしているのであって、他人にどうこう言われる筋合いもなければ、理解者など必要としていないのだ。
誰が自分のようなモノへ理解を示してくれる人間がいるというのだろうか。
彼女は常に、そう考えている。理解者を求めてもいない。それは、自身への諦めの感情にも似ていた。
2Dモデルがエリーを認識する。アバターに表情が宿る。
:待ってた。
:グウェンのことを教えてっ!
:今日も楽しみにしてるよ
:ドラッググループ
:グウェンはちゃんと治療を受けてるの?どこで治療してる?
:[不適切なコメントは削除されました]
:彼女はシドヴィシャスみたいになりたいんか?
:[不適切なコメントは削除されました]
:orionの未来をみんな心配してる
:公式発表だけで謝罪がないってどういうこと?
:いつものエリーでいてくれればいいよ。
:みんなグウェンが恋しいだけなんだ……
エリキュール・コロンボは内宇宙を管轄とする婦警だ。胸に膨らみのある茶色のトレンチコートを羽織り、肩まである金髪。青色のおおきな瞳。小さな鼻と、笑うと大きく開くが、無表情だとつつましい口。赤色のリボンが付いた黒いシルクハットを被っている。背景は星空の画面内には、ところどころに未確認飛行物体と思しき絵がいくつも浮いている。
画面の中心の彼女が、微笑んだ。
彼女が配信内で笑顔を見せることも珍しい。
視聴者に媚びない、奔放でどこまでも自由な姿。それが、彼女の魅力のひとつでもあった。
そんな彼女が、笑っている。唇は頬の途中まで開き、アバターの表情は可愛いというよりは、怖いくらいだった。
:おい、エリーが笑ってるぞ!
:これは、貴重な配信になりそうだ。
:絶対に笑いごとじゃない
:切り抜き班、仕事してる!?
:なに笑ってるんだ?
:この状況でよく笑っていられるな
コメントが加速して、消えていく。
「グウェンなら、私が預かってる。いま言えるのはそれだけ。もう帰って来ないかもしれない」
不意に笑顔が消えて、小さな彼女の言葉が聞こえた。
「あなた達が安心する必要もない。同じくらい、不安になる必要もない。私の言葉を信用しなくてもいい。切り抜きでもSNSでも、拡散してくれてもいいし、しなくてもいい」
もう一度。
ニタリ、と。
彼女は嗤う。
「今日の予定は、ゲームをしようと思っていたけど、つまらないからやめる。あなた達のせいじゃない。私が気分を害したからやめる。原因は、あなたたちのせいよ」
:怖い
:グウェンを預かってるって言った?
:どういうこと?
:彼女はなにを言ってるんだ?
:支離滅裂だ。やっぱりドラッグやってるだろ
:コメントひどいって。そりゃ彼女も怒るに決まってる。
:ファン以外帰って、どうぞ
:グウェンはエリーのとこにいるのか。
:あーあ、怒らせた
:イディオットの代わりに謝るからもっと声を聞かせてよ
:いつもこうなの?
:独特な感性だ。だから好きだよ
「いい?私は楽しいから配信をしているの。楽しくないことをすると、良い結果にはならない。人だってあっさり死んじゃう。それを誰も理解していない。分かろうともしない。……うん、それでいいと思う。あなた達はそのままでいたらいいんじゃない?私がそうじゃなければ、それでいい。だから、今日はこれでおしまい」
:君の哲学に興味はない
:続けて……くれないんだろうな。よし、今日は俺も寝る!
:グウェンの情報が出ただけで満足しました。もう来ません。
:応援するから、空中分解だけは勘弁してね
:動画に残してくれ。頑張って理解するから。
:さすが宇宙警察。謎解きを提供したわけだね
:これは古参リスナーでも読解不可。
:えー、これでおしまい?
:アンチのせいで今日は眠れなさそうだ。
「生まれて初めて嘘を吐くわ。みんな大好き。愛してる。……じゃあ、またね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます