Legend2,『origin:卒業発表』
:新衣装発表と予想
:黒背景に白文字とか怖いんだけど
:この姉妹はいつも予想の斜め上だからな
:予想を楽しむのも告知配信の醍醐味よ!
:マダカナー…
:遅ればせながら130万人登録オメ!
:休みだろ。冬休み
:今日は姉妹で何ハモリすると思う?
:両親がいないって聞いてからずっと推してる
:キキの姐さんに罵られたいですっ
:冬休みとか?
:帰省。バーチャル沖縄に帰省だろ
:なんでSeasonSの冬担当が、稼ぎ時の冬休みに休むんよ?
:まあまあ落ち着け
:全部知ってるワイ。高みの見物
:不安になるからこっそり俺にだけ教えて…
orion1期生『冬花キキ』『冬花ララ』姉妹の配信は、開始前だというのにコメントが目で追えないほどに流れている。真っ黒な背景に「重大告知」と明朝体の大きな白い文字で書かれただけのサムネイルだというのに、この人気である。視聴者数はすでに10万人を超えている。
:¥10,000- 挨拶がてら
:ナイス投げ銭!
:いや、開始前投げ銭はマナー違反ぞ
:¥5,000- あえてのマナー違反
:¥15,000- 乗るしかない、このビッグ…(ry
「おいおい。投げ銭オフにするぞー」
:キキ姉の声だっ!
:姐御ぉおおー!!!
:姐さぁーんっ!もっと声聞かしてぇえ!
:怒られた奴……けしからんぞっ(羨ましい)
:投げ銭勢は反省しろ。一生ROMってろ
:ROMってろは草。怒られてて草
「お姉ちゃん、早くミュートにして。リスナーさん?まずはオープニングを流しますね?」
:始まるぞぉおお!!
:もう投げ銭していい?
:オープニング最高だよね?異論は認めない。
:待ぁってましたっ!
配信画面が切り替わり、天使の輪と純白の翼をつけた薄桃色と青を基調とした瓜二つのアバターが交互に画面を行き交う。大きな黄色い星がファンタジックに画面を流れて、二人のオリジナル曲『Twin Stars Story』が流れる。サビを終えたところで音量が下がり始め、星が割れて中から登場した目をつむった二人の表情が微笑む。
おでこをくっつけた二人の目が開かれ、画面がまた切り替わった。
:キキララまぢ天使
:オープニングだけでお腹いっぱい。まだ食えるけど
:今日も最高
:¥10,000- もういいでしょ?い、いいよね?
白い背景。左右に立つ二人の姿。表情にいつもの笑顔がない。青色のショートのききが、重そうな口を開いた。
「今日は集まってくれて、ありがとな」
ピンクロングのららが続く。
「この日を待ってたようで、来なければいいのになんて思ってた。この二ヶ月、ずっと…………」
ぐす、という嗚咽が配信に乗る。ららのアバターが俯いたような姿勢になった。
:え?泣いてる?
:ララ、どうした?
:この流れはよくない
:あ…………
:やめて。嫌な予感しかない
コメントが加速していく。
「泣くなってあれほど言っただろ?仕方ねぇなあ、まったく……」
注意するキキの言葉は、妹への厳しさ以上に優しさと強い意志を感じる声音だった。それが、リスナーの不安を煽る。
:長期休みであってくれ。
:いやだ
:ごめん、もう泣いてる
:ドッキリ企画?
:ああああああああ
:心の準備をさせてくれ
「ちょっと、ララにはこの発表をするのは難しいみたいだから、オレが言うんだけどさ……」
下を向くららのアバターをよそに、姉であるキキの視線はしっかりと正面を見据えている。
「ちょっとオレら
キキの声が続いている。その遠くで、マイクをミュートにしているであろう隣のららの嗚咽が響いていた。
「前にも言ったけど、オレらは小さい頃から、生まれのせいもあってイジメられてたり、日本人と……、ちょっと違う部分があるからさ。目の色とか、肌の色とか。子どもながらにすっげーコンプレックスだったわけなんだけど。……んで、母親が死んでさ。勢いで無計画に東京に出て来て。バイトしながら、これから二人でどうしようなんて考えて、自暴自棄になりかけてて。そんな時に、ダメ元で受けたオーディションに合格しちゃって…………」
キキの表情は変わらない。なのに、彼女が涙を我慢しているのが、リスナーには確かに伝わっていた。コメントは止むことを知らず、惜しむ声、混乱、悲痛な叫びが席巻している。
「思い出すよ。初配信でさ……、正直、日本語があんま得意じゃなかったから。沖縄訛りとか、いろいろ言われたりもしたけど、オリメンもリスナーのみんなも、快くオレらを受け入れてくれたよな。……ホント、感謝してる」
オリメン、とはorionのメンバーの略で、0期生から海外組まで全てのorion配信者たちのことだ。
キキが呼吸を整える。気持ちを整理するかのように。なにかを決心するかのように。
ララのアバターが顔を上げた。
「……お姉ちゃん。二人で、言おう?」
アバターの表情を二人が操作することはない。しかしリスナー全員が、隣の妹にキキが振り向き、そして微笑んだのが分かった。
「そうだな。いつだって、オレらはそうしてきたからな……」
二人が正面を見据える。画面越しのリスナーたちを真摯に見つめている。
「orion1期生、冬木姉妹は、来月末をもって卒業します」
「リスナーのみなさん、今まで本当に…………」
交互に言葉を紡ぐ二人。
涙している。これまでの活動に対して。応援してくれるファンに対して。
一瞬の間。二人のアバターがお互いを見つめる。
そうして、もう一度こちらに視線を戻した。
「「本当に、応援ありがとうございましたっ!」」
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