Legend2,『幻の1期生②』
◇◇
「…………ッ!」
急に後ろから抱き寄せられて、アタシは少し驚いてしまった。
ララだった。さっきまで先輩と歌っていたから、香水と汗の香りにふんわりと包まれたような気がした。アタシの方が身長が高いのに、小柄な体躯が力強く、それでいて優しく、アタシを抱きしめる。
「ごめん……。ごめんね?」
謝らないでほしかった。なにも二人が悪いことなんてない。二人にはどうしてもやりたいことがあって、それは活動休止とか、しばらくお休みとか、そんな中途半端な形ではできないことで。
でも、残されたアタシたちは?みんなとの思い出は?友情は?絆は?
ぜんぶ…………、全部なくなっちゃうの?1期生として築いてきた関係は、これでおしまいなの?
「ずっと、ずっと一緒だよ?めめちゃんも、夕方ちゃんも、メイナちゃんも……、ずっと一緒にいるよ?活動する場所は、みんなとは違くなっちゃうけど、私とキキは、ずっと『orion』の1期生。いつも一緒にいる、心の中に……」
「舞台準備できましたーっ!……あ」
スタッフさんがアタシたちを呼びに来てくれた。しっかりと泣いているものだから、1期生みんな慌てて背を向けて、目をゴシゴシしてる。スタッフさんにも構わずに、ららが続ける。
「私たちが存在していたこと。みんなと一緒に配信を、『orion』を盛り上げたこと。みんなと過ごした時間を、私たちは忘れない。だから、みんなもずっと、心の中の私たちと一緒に、アイドルを続けてほしい。……やだ。今日は泣かないって決めてたのに、もう……」
目をきらきらさせながら、ララは少し離れて、アタシに向かって微笑んだ。
その微笑みに、アタシは応えないといけない。わかってる。わかってるんだけど、アタシはもう、涙を自分で止めることができなくて、言葉が出てこなくなっていた。顔がもうズビズビだ。
「唄おうよ?私たちが、今できる最高の歌を。一緒に作ろうよ……、最高の、最後の舞台をっ」
ふわり、とアタシの前に来て、もう一度私を抱きしめながら、ララが静かにそう言った。
もう言葉なんて出てこない。でも、頑張って首を縦に動かす。
「こういう時は、円陣を組むんだって、死んだ父ちゃんが言ってたっ!さあ、みんな!二人んトコに集まってっ!」
夕方ちゃんが涙と鼻を拭きながら、いつもどおりの元気な、でもちょっと涙声で、叫ぶように言った。
全員が肩を合わせて、頭を寄せる。
「え?なんて言うの?……掛け声なんて初めてじゃない?」
円陣を組んだはいいものの、初めてだからそこから先を決めていなかった。しっかり者のメイナが、夕方ちゃんに向かってちゃんと指摘する。
それに応じたのはキキ姉だった。
「最初で最後、か。……いいじゃねーか。掛け声はオレたちが決めていいかい?」
クールな低い声で、にやっと笑いながら言う。隣のららが、
「1期生ーーッ!って夕方ちゃんが言うの。そしたら、私たちが続いて、最高ぉーッ!って答えるの。ね?いいでしょ?」
と、本当に楽しそうに提案する。
「いいね。……オレたちが卒業しても、絶対に続けてくれよな?」
キキ姉が同意する。この二人の意見が合ったら、いつだって、それは決まりの合図。リスナーだってみんな知ってる。でも、これが、きっと最後のテンプレート。
アタシは涙を手の甲で拭いた。
「今日だけ……、今日だけでいいから、アタシが…………、最初のトコ、やらせてもらっていいかな?」
全員がアタシを見て、お互いの顔を見合わせて、そうして、微笑んでくれた。
もう。
また1期生のことが、好きになっちゃうじゃない。
「最後の舞台、か…………」
「じゃあ、あとは舞台の上でな?」
「ちょっと体温が上がってきたわね」
「うんっ!じゃあ、めめっ!しっかり頼んだよっ!」
「私、もう泣かないから。……よしっ!1期生ぇえええーーーーーっ!」
「「「「「さいこぉおおおおおーーー!!!」」」」」
全力で叫んで、全力で駆け出す。もう後ろは振り返らない。階段を駆け上がって、舞台の上に立つ。もう涙は誰にも見せない。
だって、キキとララがいなくなって、1期生は大丈夫なのかなって、二人に心配させたくないから。
大丈夫に決まってる。
決まってるよ。
だって私たちは、1期生は、最高なんだから。
:1期生だーーーー!!!!!
:ずっと待ってた泣
:kawaii!super kirei!wondaerful!beautiful!
:伝説のっ!始まりだぁーっ!
:im dying…,Am’i in a dream?
:やべえ、なんだこの白い衣装?ウェディングドレスみたいだ。みんな、結婚しよ?
:seasons最高。ただ最高。涙が邪魔で画面が…。泣き止めよ俺…
:twins become the legend…
:全俺が泣いた。。ありがとう。。生きてて良かった。。。
みんなも、しっかり見てて。しっかり目に焼き付けといてよね。
アタシたちは、最高なんだから。
◇◇
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