第11話 先生①

 聞いて。聞いて。


 カウンセラーの先生は、ずっと昔にぼくを痴漢した男と背格好がよく似てます。


 数回相談を重ねて、ある回でカウンセラーの先生に全面的に信頼を置いて、すべてをさらけ出すように、傷をえぐり出すように話しました。




 次の回では逆に先生がぼくをどう映しているかが気になり出しました。


 話をセーブしました。

 ぼくは自分が客観的にどう見えるのか必死に分析してました。


 先生の望む患者像でなければならないと、ぼく自身にきつく言い聞かせました。


 思えば、それはこの場を自分でコントロールしたかったからだと思います。


 だって、先生の予想外のことを言えばきっと不思議そうな怪訝な顔をされます。


 その後の会話がどう展開されていくか予測できないことが怖かった。対処法が分からなかったんです。


 だからほとんど強迫的に「被害者」をなぞりました。


 世間からの、不可視ふかしの圧力の、被害者。


「いやほんと、馬鹿ですよね」


 ぼくは頑張って笑って、口の端を歪めます。


 先回りするんです。何か言われる前に、思われる前に、先回りしておかなければ余計傷つきます。


 表情、仕草、目線、の取り方、姿勢、服装、咳払いのタイミングまで気を張りました。


 そうしながら、さながらセンサーのように先生の一挙手一投足を見張りました。




 何回か相談の回を重ねて、気疲れしてました。


 サボりたいなあ。自分からカウンセリングしたいと訪ねたくせに勝手すぎるなあ。とぼくは揺れてました。





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