第6話 母ちゃん②

 聞いて。聞いて。


 母ちゃんは基本、無邪気で綺麗好きで可愛らしい人です。


 母ちゃんが、うちはよそより幸せだと言うので、きっとぼくはよその子より幸福です。


「うちは毒親にはなれんね。母ちゃんは父ちゃんが怒ってる時は怒らないし、母ちゃんが怒ってる時は父ちゃんは絶対怒らないって決めてたんよ、実は! どっちかが慰め役になるってね。あんた知らなかったでしょ」


 母ちゃんは慰めてくれたらしいけど、ぼくはそんなこと覚えてなかったんです。


 覚えてるのは、父ちゃんの暴力をずっと知りながら傍観してた母ちゃんでした。

 兄ちゃんとぼくの叫び声を無視し続ける、たくましさでした。




 母ちゃんは誇らしそうですが、ぼくは別に母ちゃんの教育の賜物たまもので高校に通えたわけではないんですよ。

 ぼくの功績が全部、あなたの手柄ってわけじゃないんです。


 絶対口には出さないけど。





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