第5話 母ちゃん①

 聞いて。聞いて。


 何かの拍子で兄ちゃんと喧嘩しました。

 兄ちゃんのほうが体格がいいし、当然ぼくが劣勢です。


 テレビのリモコンが飛んできて、おでこに当たりました。


「母ちゃん! 母ちゃあん!」


 ぼくは泣き叫びます。


 火のついたように、ではなく、ちょっと演技入ってました。

 場を収めてくれる人を早く召喚したいがために。




 多分それは母ちゃんの目には、三歳児の泣き方に見えたんです。

 三歳児は涙をあまり出さないぎゃん泣きをして、望みのものが手に入ると、ぴたっと泣きやみます。


 母ちゃんはぼくの大袈裟を見抜いて、台所からフォークをぼくに投げました。


 ぼくの頬を掠めて、フォークが床板に突き刺さりました。


 母ちゃんは「不幸面し腐りやがって」とぼくを罵りました。





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