第3話 父ちゃん①

 聞いて。聞いて。


 父ちゃんがぼくのTシャツのえりを掴んで引きって、玄関から外に放り出し、扉を閉めて鍵をかけます。


 多分ぼくが騒いだからと、その時にたまたま父ちゃんの虫の居所が悪かったから。

 そこに思い至ったのはずっと背がデカくなってからでした。


 ぼくはあまり抵抗しません。


 こけるとそのまま引き摺られてふくらはぎが擦れて皮が剥げるから立っていようと若干は踏ん張るけど、基本は父ちゃんの引き摺りたい方向によたよた進んでいきます。

 いつも、ちっとも前進しない水泳のバタ足くらい足が重くなりました。


 こういう時の父ちゃんをケンタウロスに例えたこともあったけど、本当は首無しです。


 男の首から上だけがすっぱり無い、化け物。


 父ちゃんの荒い呼吸音と腕力の強さは覚えてるけど、どんな顔だったか、何を怒鳴っていたか、いまだに思い出せません。


 父ちゃんはぼくや兄ちゃんが反省したら、玄関の鍵を開けます。


 これは父ちゃんの中では一貫して、しつけでした。


 でもぼくは、父ちゃんは何で外にいるぼくらを見もしないで反省したか分かるんだろう? と思ってました。





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