第2話 原風景

 聞いて。聞いて。


 玄関の扉を挟んだ外に兄ちゃんの気配があって、ぼくは扉の内側にいます。


 玄関には鍵がかかってました。

 外灯は点いてたけど内は暗いままでした。


 父ちゃんはリビング、母ちゃんは洗面所でシカト決めてました。


 ぼくは心臓をバクバク鳴らしながら、音が立たないように、鍵を開けました。


 カチャン。

 と鳴ったかもしれない、鳴らなかったかもしれない。


 ぼくは臆病で、父ちゃんにこのことが露見するかもしれない。そしたら兄ちゃんもろとも外に放り出されるかもしれない。と考えてました。


 心臓が迫り出しそうでした。陸に揚がって浮き袋を吐いてのたうち回る深海魚でした。


 ぼくは玄関の土足のところで膝を抱えて二十秒待って、また、罪の意識に苛まれながら、玄関の鍵を閉めます。


 兄ちゃんの身代わりになれないことを恥ずかしく思いながら。




 これがぼくの原風景です。





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