第3話 世界大会①
「……八」
近づいてきた白い機体――量産機ダッグに狙いを定めて引き金を引いた。
グレイスの高エネルギービームライフルが光を噴き、ダッグを貫いた。
次に宇宙空間を駆ける二機のダッグ、自分たちを狙っているのに気が付き、蛇行しながらこちらに向かってくる。
不規則ない軌道をするダッグにシュウは冷静に狙いを定めた。
「……九」
右のダッグを撃破、もう一機。ダッグの挙動から察するに、少し銃口を右に傾けて撃つ。
「十」
狙い通りに胸部に直撃する爆散する。
『Mission Complete』
勝利の証が画面に映し出された。
「初級ミッションで命中率九十六%、中級で九十%、上級で八十四%、すごいね!」
出迎えたに来たツグミが飛び跳ねながら喜んでいる。
「命中率は大体九十%、すごいすごい!」
「……いや、それほどでも」
「私なんて、止まってる敵でも三発に一発は外しちゃうのに」
戦闘での適正を確かめるためにチュートリアルを一通りやってきたが、どうやら自分は射撃の方が向いているらしい。
「逆に近接戦闘は苦手だな」
「うーん、激しい動きをしてる敵にもちゃんと射撃を当ててるから反応速度はいいと思うんだけどなあ」
しかし距離を詰められると、そのまま押し切られることが多い。
「多分、近接戦闘のセオリーとか対処法とか身についてないだけだと思うよ」
結論としては高機動で射撃がメインのグレイスと自分の現状のカタログスペックの相性はいいようだ、良かった。
「大会まであと六ヶ月だし、何とかなるよ!」
大会、昨日チュートリアルを終えた後にツグミから力説されたのを思い出した。
『叫べ! 俺の、私の機体が最強だと! 今年も世界の頂点を決める大会が開催決定!』
広場の空に大きく映し出されて映像は終了した。
『Framegear world championship』
年に一度ある大型イベント、その名の通りの世界大会であり、予選を含めるととんでもない数の人たちが参加する、まさにこのゲームで最強の存在を決める戦い。
ツグミはキラキラした目でこっちを向けてきた。
「私はこの世界で一番になりたいんだ!」
そんな真剣なツグミを見て温度差を感じているのは事実だった。
自分はただ楽しくてここにいるだけで、誰かとそんな真剣に競い合うこともなかった。
楽しくのこのゲームができればそれでいいのだ、そんな真剣に大会に臨もうとしている彼女と中途半端に大会に臨むことはできない。
「じゃあ操作は大体覚えたみたいだからー今度は機体の強化だね!」
前はゲストアバターだったため使える機体は限られていたが、今回はアバターを作ってログインしたので、機体は全て解放されていた。
オリジナル機体の数は約百種類、そして今も定期的なアップデートで増え続けている。
この無数に増えた選択肢の中で、シュウが選んだ機体は――
「やっぱりグレイスなんだね」
「ああ」
自分の得意分野とうまくマッチしているし、何よりカッコイイ。
そんな白と青の機体を、自分好みに改造する。
機体を無数に存在する選択肢を駆使して、好きにカスタマイズし自分だけの機体を作る、それがフレームギアオンラインの醍醐味である。
原形を留めないほどに改造してもよし、色を変えるだけでもオリジナリティが出る。
「初心者は好きな機体を作るのは簡単だけど、強い機体を作るのは難しいんだよねえ、でも最初は好きに作るのが一番だよ」
機体と同じくらいの数の武器、どれがいいのか分からない。ひとまず威力が高そうな砲身の長いバスターライフルと、巨大な実体剣バスターソードを装備して、ミッションに赴く。
密林に着地してすぐに気が付いた。
――機体が重い。
原因は言わずもがなバスターライフルとバスターソードである。武器の重さからグレイスの特色である高機動を発揮できない。
敵が出てきた、すかさずバスターライフルを構えた。
チュートリアルの敵――量産機ザレン、全長二十三.三メートルとグレイスよりも背が高く、ボディも細身のグレイスとは違いどっしりとしている。
その灰色の三体が向かってくるが、そこまで早くはない、いつも通り狙いをつけて、引き金を引く。
バスターライフルの銃口が光り輝きそして敵機を呑み込むほどの光を放つ。
「うおっ!」
その光線の威力、電子空間にも関わらず、コックピット内にも熱量を感じる。そして目の前の敵機を森ごと焼き払った。
「まじか……」
前方が草一本も残らない、焼け野原と化した。
少しの間、啞然としていると敵の第二波が来た。どうやら残りの二体は躱したようだ。
もう一度、バスターライフルを――しかし先程の光が放たれなかった。
『エネルギー切れだよ!』
オペレートしていたツグミの言うように、バスターライフルのエネルギーゲージがすっからかんになっていた。
一発撃ち終わったら、再チャージに時間がかかるため連射できない。まああの威力を見れば
使用可能なのはグレイスのサブウェポンであるウィングバインダーに装着されたプラズマカノンとバスターソード。
プラズマカノンは隙が大きい、接近している敵の攻撃が先に届くだろう。
『後ろからもう一機来るよ!』
「くっ!」
間一髪バスターソードの刀身で受けた、敵のレーザーブレードがバスターソードと衝突する。
このバスターソードは耐ビームコーティングがされているため、ビーム兵器に多少の耐性がある。
ザレンは構わず打ち込んできた。細身のレーザーブレードの方がバスターソードよりも小回りが利く上に、バスターソードの重みに翻弄されて反応が遅れる。
「くそっ!」
苦戦しているうちに、もう一機が現れた。鍔迫り合いをしているザレンを飛び越え、ビームライフルを放った。
一筋に光線が右肩を貫いた、貫かれた肩部が爆散し、その衝撃がコックピットを揺らす。
「機体制御が……」
片腕を失い、バスターソードの重みでバランスを崩してしまった。
銃口と光刃、その二つの輝きが俺の機体に二つの風穴を開けた。
「あーくっそー」
「バスターライフルとバスターソードの二つ持ちは流石にバランスが悪かったね」
「単純に攻撃力が高い奴を選んだのはまずかったな」
「うん、バスターライフルもバスターソードも攻撃力は高いけど、取り回し悪いし重いから」
「じゃあ、グレイスでその二つは使わない方がいいってことか?」
グレイスのコンセプトは高機動を生かした射撃機体、ヒット&アウェイで相手を一方的に攻撃する、コンセプトが崩壊しかねないのでこの二つは装備しない方がいい気がする。
「ううん、武器の強化改造とか機体のフレーム強化とかで、自分の好きな機体をそれが使えるように強化すればいいんだよ、なんたってここは『フレームギアオンライン』なんだから!」
武器を強化してバスターライフルとバスターソードを軽量化するとか、グレイスでもこの武器を最大限に使えるように改造することは可能らしい。
このゲームの売りは自由度の高さといってたのは伊達じゃないということか。
「今は無改造状態だから、これから機体を強くしていこう!」
当面は改造資金集めと、強化プランの考案になりそうだ。
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