第2話 Access New World②
緊張が解け、体から力が抜ける。
楽しかったけど、ちょっと物足りない。あの先ほど見た、戦いの熱は冷めない。
もうちょっとやっていくかな――その時。
“Warning”という文字と警告音。
そして空が黒く塗り替えられる、いやこれは空ではない。
さっきまでの雄大な自然まで、虚空に変わっていく。
やがて黒に塗りつぶされた世界、いや光を放つ一つのものを見え、ここがどこか理解した。
それは青い星。それは黒の天幕に燦然と輝く母なる星――地球。かつてユーリ・ガガーリンが見た景色を俺は仮想空間で体験している。
『大丈夫?』
ツグミから通信が入る、その表情に少し動揺が滲んでいる。
「平気だけど」
「そっかぁ、よかったあ」
ほんとに胸を撫でおろす奴っているんだな。
「これは何?」
『緊急ミッションだよ、ホントは普通のミッションの後に一定確率で発生するんだけど、システムの不具合かな』
画面にミッションの内容が映し出される。勝利条件は「敵エースを撃破せよ」。
そして間髪入れずに“Misson Start”の文字が――。
いきなりグレイスのコックピットが大きく揺れる、グレイスに突撃しているのは黒を基調としたボディに赤いラインの入った機体――ランスロット。
シュウはサブウェポンの一つであるボディに内蔵されたバルカンを撃つ、正直焼け石に水だが。
それでもランスロットはバルカンを躱して距離を取る。
点在する星々が浮かぶ宇宙という海、そして縦横無尽に泳ぐ円卓の騎士、ランスロット。
その速度は彗星の如く、しかし、何とかとらえられない速さではない。再び直線的に突撃してきた。
それを狙って放つ二つの光線、メインで選んだ二丁のレーザーライフルを撃ちまくる。
放たれた光は一直線にランスロットに向かっていき、胴体に着弾――だがしかしその光は弾け飛んだ。
「弾かれた⁉」
『耐ビームコーティングだよ!』
二発三発、撃ち込むがどれも弾かれる、装甲に特殊な加工をしているためビーム・レーザーの類は効果が薄い。
円卓の騎士は左手でバックパックから一本の光刃を引き抜いて、一直線に斬りかかってくる。
グレイスも引き抜いたビームブレードでその刃を受け止めた。だが鍔迫り合いは一瞬で、突っ込んできた勢いのまま、ランスロットは左足でグレイスを蹴った。
「くっ!」
為す術なく吹き飛ばされ、完全に体勢が崩れた。だが二機の間に少しだけ距離ができる。
銃を構えて近づけないように牽制――とはいかなかった、再び距離を詰めたランスロットの一太刀が構えた銃をとらえる。
真っ二つになった銃が爆散した。だがランスロットは追撃を緩めない。
何とかその追撃をバーニアを吹かし、上昇して回避して、距離を取る。
完全に防戦一方だ、何か、何かないだろうか、シュウは頭をフル回転させて打開策をひねり出す。
そして胸に去来するのは一つの感情、何故だろうか、悔しい、こんなことは初めてだ。今まで何かに熱中することなんてなかった。
でも今は、目の前の敵に負けたくないと思っている。
自分でもこんな感情があるなんて意外だった。だから今は――この感情を全力でぶつけさせてもらう。
この機体の武器はメインで選んだレーザーライフル、近接武器であるビームブレード。サブウェポンに胴体のバルカンにバックパックに取り付けられた二門のビームキャノン。そして背部の四枚羽のウィングブースターに装着された長距離プラズマカノン。
前者二つ、少なくともライフルの方は効かなかった、ビームブレードの方は効くかどうかは分からないが接近戦で目の前の騎士に当てられる気がしない。
バルカンは対空装備だから決定打はならない。
後者二つは威力が高いが隙が大きく、再チャージにも時間がかかる。何よりもビーム兵器なので効かないかもしれない。
一か八か、だな。
三度真っ直ぐに突っ込んでくる黒い騎士に狙うのは敵の右側、左腕、ライフルで狙う。
しっかりと狙いを定めて、引き金に指をかけ、撃つ。
放たれた一撃は奴の左手を捉え、なかった。奴が左に回避したのだ。
――予想通りだ。
左手を狙って、わざわざ左には避けないだろう、左手よりもはるかに表面積の大きい胴体をわざわざ射線上に近づけるように回避する必要性は全くないからだ。
狙い通りに奴は回避した、次の一手だ。
奴の回避した先に、ビームキャノンとプラズマカノンを起動する、これが切り札だ。
ブースターが変形して機体の肩口から二門のプラズマカノン、腰から二門のビームキャノンがせり出す。
四つの砲塔から眩い光線が放たれた。
この一撃にかける。
放たれた光が黒き鋼の騎士に直撃する、先程のように装甲が光線を弾く、だがその光の威力を殺しきれない。
そしてランスロットは光に呑み込まれ、堅牢な装甲は溶解する。
鋼鉄の騎士は爆炎に包まれて、散る。
限界を超えて照射し続けた四つ砲身が内部の熱を吐き出す。冷却と再チャージまでに時間がかかりそうだ。
“Misson Complete”の文字が映し出される。
「すごい、すごい、すごーい!」
ゲーム終了して筐体から出た俺を待っていたのは小動物のように跳ねるツグミ。
まるで自分のことのように喜んでいる。
「すごいよ! 初めてで緊急ミッションをクリアするなんて」
「あ、ああ」
彼女の勢いに押されてととぎまぎするが、それだけではない。
先程の対戦の熱が冷めない、仮想だったはずなのに、グリップの感触が手に残っている、気がする。
「ねえ?」
自分の手を凝視する、俺に声をかけるツグミ。
「楽しかった?」
……俺の感じた曖昧な熱の正体は説明できないけどこれだけは言える。
「ああ、今までで一番楽しかった」
運動場で青春していた彼らの気持ちが少しだけわかった気がした。
「ねえ君」
「ん」
にっこり笑うツグミ。
「お願いがあるんだけど」
なんか不自然な笑顔だな、なんか企んでそうだ。
「私と一緒に、あの世界で一緒に、頂点を目指してほしいんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます