フレームギア・オンライン

未結式

第1話 Access New World

「ほんじゃーなシュウー」

「ああ」

 部活に赴く友達を送り出して、俺は帰路に就く。

 部活をしてない俺にとって放課後はどう過ごすか頭を悩ませる時間でもある。

 運動場の方に目を向けると、活気のある部活風景、白球を追いかける青春の一ページである。

 今まで何かに熱中することはなかった。

 何かの技能を手に入れるために過酷な修練を積んだことも、大きな苦難に打ちのめされたことも、ない。自分の全てを犠牲にしても手に入れたいものも、何も。

 だから一つのことに対してあれだけ熱中できる、運動場の生徒たちを尊敬しているし、羨ましくもある。

 そんな彼らとは違い、ただ放課後をどう過ごすかに思案を巡らせる。といってもこの街に遊ぶところはあまりない。

 少しの思考の後――一つの答えを導き出す。

 久しぶりにゲーセンでも行くか。



 隣町のゲームセンターに赴く、俺の住む町にもゲーセンはあるもののよく生活指導の教師が見回り来るらしいので、そこで見つかると面倒なことになる。

 ゲーセンの中は様々な筐体の織り成す軽快なサウンドと明るい照明が織り成す空間。

 平日の夕方ということもあってか客は制服姿の学生や恐らく学校終わりの私服姿の小学生などが多い。

 何年もこういう場所には来てなかったのでゲームの筐体は見たことのないものばかりだった。

 さて何をやろうか品物を見定めるが如く店内を物色する。

 ふとある筐体が目に留まった。

 大きな球状の筐体で中身は見えない、すぐ横の壁に設置されている大きなモニターで何が行われているかは分かった。

 そのモニターに映し出されているもの、何機もの鋼の戦士たちが宇宙を駆け、熾烈な対決を行っている。

 画面が切り替わる。鋭角なデザインの白銀の機体が大空を自由に飛んでいる。

そして相対する紫紺の機体。

 天空を駆ける二つの機体、互いに何かを引き抜いた。光の剣だ。

 ぶつかり合う二つの剣、激しい戦いが空で繰り広げられる。

 空中で切りを結ぶ二つの機体、互いに距離を取った。

 紫紺の機体から何かが放たれた、白煙を吐きながら白銀の機体へと飛んでいく、どうやら小型のミサイルのようだ、回避行動を行う白銀の機体を追尾する。

 気づけば白銀の機体の周りはミサイルで埋め尽くされていた。

 誰もが思うだろう、白銀の機体の敗北だろうと。

 だがしかし白銀の機体は右手に持った銃を構えて狙いを定めた。

 白銀の機体の銃から放たれた光線が拡散し、次々とミサイルを打ち落としていく。

 爆炎が空を覆っていく、白銀の機体が黒煙に呑み込まれる、そして黒煙を切り裂いて現れた白銀の機体が何かを腰から引き抜く。

 手のひらサイズの円柱形、何かの柄のような。その柄から光の剣が出力され、その剣を紫紺の機体に突き立てた。

 紫紺の機体は刺された箇所がスパークし、爆散する。

 画面が切り替わりモニターを支配したのは、白銀の機体雄々しき勝利者の姿だった。



 戦いの激しさと熱気は画面外にいる俺にまで伝わってくる。

「……すごい」

「そのゲーム興味ある?」

「うおっ」

 画面に集中していた俺の背後から声をかけられる。振り返ると女の子がいた、パーカーにホットパンツという活発な格好かつボーイッシュな格好をしている。

「うん、興味のある顔をしているね! 早速やろう!」

「あ、おいちょ待っ」

 ぐいぐいと中に押し込まれる。無茶苦茶押しがすごいなこの子。まあどうせこのゲームをやるつもりだったから別にいいけど。

 筐体の中は三六○度モニターに囲まれたシートしかなかった、そのモニターには宇宙の映像が流れていた、人が生きることはかなわぬ漆黒の虚空に明滅する鮮やかな光。

「中にあるVRゴーグルつけたら、フレームギアオンラインの世界へ、レッツ、ダイブオン!」

 とりあえず言われた通りに目の前のゴーグルをつける。

 目と耳が覆われる、少しすると鮮やかな色彩と音楽に目と耳が支配された。

 



そして意識は電脳領域に潜り込む。



 再び目を開けるとそこには。

「……マジか」

 高層ビルの立ち並ぶ近未来都市が広がっていた。

 道行く人々も色々な人がいた。やたらと派手な服を着た人、獣の耳が生えた人、顔がデフォルメ化されたパンダの人、二頭身のSDキャラ。

「やっほー」

 まばらなキャラクターの流れの中に手を振りながら近づいてくる、金髪ツインテールの美少女キャラ、どことなくさっき俺を筐体に押し込んだ少女に似ている。

「じゃあここから私がフレームギアオンラインの世界を案内するよ。あ、私はツグミ、よろしくね」

「ああ、俺はシュウだ、よろしく」

 そう言って歩き出す少女――ツグミについていく。そして辿り着いたのはひと際大きなビルの前。

 ビルの中は吹き抜けで、開放感がある作りになっていた。人の出入りも多く皆楽しそうに談笑している。

「ほらあそこ」

 その広いエントランスの真ん中、ツグミが指差したのは受付のような場所。

受付嬢らしき人にツグミは話しかける。

『ミッションの受注ですね』

ツグミの前にホログラムが映し出された、ツグミはそれを手際よくポチポチ。

「ゲストアバターだからできることは限られるけど、基本的にここでミッションを受けて戦う、それじゃあチュートリアル行ってみよー」

 ツグミはこっちを向いてにっこりと笑う、と次の瞬間場所が変わる。

 そこは無機質な格納庫だった、だが高い場所に行くための足場はあるもののそれ以外には何もない。

「ここは?」

「ハンガーだよ」

 仰々しい足場以外何もないこの空間は空虚に見える。

「次は機体選びだね」

 俺の目の前に画面が映し出された。

「ゲストが使えるのは五体、その後メインウェポンを二種類選ぶ」

 空中に映し出されたモニターには機体の説明と五角形のレーダーチャートが載っていた。チャートの頂点には耐久、射撃、格闘、機動性、装甲。

「なあ、耐久と装甲の違いは」

「うーんRPGでいうと耐久はHPで装甲は防御力かな」

「分かった」

 そのことを踏まえて、まず最初白い機体、直線的なデザインでシンプルな機体。二番目、赤くて丸みを帯びたマッシブなデザイン。三番目、黒い機体。前の二機よりも大きい。四番目、白と緑の機体、流線形。

 そして最後、青と白の機体。全体的には細身、ボディは曲線的なデザインだが四肢は直線的。そして目を引くのは、四枚の翼に見える巨大なバックパック。スペックは射撃、機動性の値が高く、格闘もまずまず、そしてサブウェポンが強力らしいが、耐久と装甲の値がかなり低い。説明文曰く中~上級者向けらしい。

 何となくさっきのゲーセンで見た白銀の勝利者に似ている気がする。

 あんなふうに戦えたら……。

 気がついたら最後の蒼い鉄巨人を選んでいた、名前は――グレイス。

「選んだ? それじゃあ最終確認だね」

 待機用のハンガーには先程選んだ機体、その後もメインの射撃武器などの装備を選んで、決定を押すと、何もない格納庫に何かが現れる。

 見上げるほど巨大な蒼い鋼の戦士がそこにいた。

「これが君の機体だよ」

「俺の……」

 俺の機体か……選んだのは数分だが何か感慨深いものがある。

 コックピットに乗り込む、複雑な計器類とか並んでいる、リアルだな。

『じゃあ出撃、行ってみよー! 楽しんできてね!』

 ガコンと大きな音がして、目の前の画面に映る外の様子が横に流れていく。その流れが止まったとき目の前には、格納庫と同じ壁に囲まれ、二つの真っ直ぐに伸びた溝が入った一本道。

 そしてその道の先には、光が差し込む出口。

 シグナルが赤から青に変わる、それと同時に機体が出口に直進する。

「うおっ⁉」

 最初に目に飛び込んできたのは雄大な自然だった、鮮やかな緑の樹海に、聳え立つ山脈、透き通った湖。

 それに空を自由に飛んでいる。羽を持たない俺たちにとって不可能なことを仮想現実で体験している。

「なんか……すごいな」

 未知の世界に触れた時の衝撃で語彙が死んでいる。

 そんな中、急にコックピットの中が慌ただしくなり、アラートと赤い照明が点滅しだす。

 正面の画面内に敵影と思しき赤い三角が映る。その数は三機。

 そして映し出される「敵を殲滅せよ」という文字、そして“Misson Start”

 そのまま直進して、ぎりぎり視認できる距離まで接近する。

見えた。細身な白い機体がこちらに銃口を向けて、撃ってきた。マシンガンを装備しており、銃弾をばら撒いていてきた。

チュートリアルだからか、回避行動のやり方を丁寧に教えてくれた。その通りにレバーを動かす。三機の機体の上空を位置取りする。

回避行動の次は攻撃の説明、先程機体の選択の後に選んだ主兵装である二丁のレーザーライフルを撃って一機墜とす。

続いてこちらに向かってくる二機に対して、腰にさしてある二本のビームブレードを引き抜いて、二刀流。

そのまま敵機に突っ込んでいき、すれ違いざまに二機を真っ二つにする。

後方で大きな爆発が起きた、そして“Misson Complete”と画面に出た。

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