第54話 初代工部卿と長州ファイブ 3

 自分が出発する前に大隈を政府から追い出して欲しいという黒田を大久保はなんとかなだめ、それより外国を見て来るようにとすすめた。


 大久保になだめられた帰りに黒田と勝がばったり会った。

 

 勝は黒田が鉄道に強く反対していることを知っており、気の強い勝は年上の黒田に遠慮せずに物を言った。


「黒田さん、いよいよ海を渡るそうですね。海で良かったです。鉄道のない陸でしたら、船も利用できないし、歩いていかなければいけませんからね」


 からかわれてることに気づいた黒田は顔を真っ赤にした。


「つまらぬことを言うな! 船があるところならば船に乗るし、歩かなければならないところは歩く。鉄道建設などよりも先にやらねばならないことが、この日本にはあるのだ」


 黒田は勝に反論したが、勝はどこ吹く風だった。


「ともかく外国をよく見てきてくださいよ。そうすれば、何が日本のためかよくわかるでしょう」


 勝は頭が良く、根性があり、イギリス留学した長州ファイブの中でも唯一、UCLを卒業して修了証書しゅうりょうしょうしょを受け取るなどがんばりやであったが、頑固であまのじゃくで、気が短かった。


 博文はそういう勝をよくサポートした。


 なお、黒田はまっすぐな性格で、外国を見て戻った後は、自分が間違っていたと鉄道を応援する側になっている。


 庸三と共に工部省を作り、初代工部卿になった博文だったが、実際の仕事は庸三に任せっきりだった。


 鉄道のこともイギリスの技師エドモンド・モレルや技術者を招いたり、工学寮こうがくりょうを作るための意見書を書いたりしているが、現場のことは庸三や勝に任せている。


 長州ファイブは勝・庸三といった技術者と、彼ら技術者が活動しやすいように力を貸す博文たち政治家という協力関係で、日本の文明開化をおし進めていった。


 なお、庸三と勝はよく衝突しょうとつしたので、博文は二人の間に立って話をまとめたりもしている。


 衝突というか、勝があれこれ要求したり、山縣たちにも遠慮なく物を言って、つっかかっている面が強いのだが、勝は博文とは仲が良かったため、博文が勝がうまくその力を発揮できるよう協力することが多かった。


 工部省の話ではないが、ここで遠藤謹助の話もしておこう。


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