第44話 聞多、斬られる 3
「……ん」
かすかな声がして、聞多が目を開いた。
「聞多!!」
もう話すことも、その目を見ることも出来ないと思った聞多が目を開き、俊輔はぐっと聞多に顔を近づけた。
「聞多、わかるか。僕だ、俊輔だ」
「……俊輔……ここにいては危険だ」
聞多は親友のために声をふりしぼった。
「俊輔の身にも危険がふりかかるかもしれない……。早く、この地を去るんだ」
「でも……」
息も
「俊輔も死んでしまったら、誰が長州藩の将来をひっぱっていくのか。俺はもう覚悟ができている。だから、俊輔は急いでここから去るんだ」
離れたくない気持ちは強かったものの、俊輔は聞多の言葉を聞き入れ、立ち上がった。
「どうか聞多のこと、よろしくお願いいたします」
聞多の家族にそうお願いして、俊輔は聞多の家を出た。
長州藩内では幕府に従おうとする側が優勢となり、聞多たちのイギリス行きを支援してくれた長州藩の開明派実力者・周布政之助も責任を負って切腹した。
さらに
他にも多くの者が謹慎させられたり、職をやめさせられたりした。
高杉は身の危険を察し、萩を脱出して、筑前に隠れた。
この頃はとにかく状況が変わるまで身を隠していないと、どんな理由で殺されるかわからない時代なのである。
俊輔は来島又兵衛が率いていた力士隊四十人を山口から下関に移す許可をもらい、それを率いて、急いで下関に戻った。
山口にいては何かの処罰に巻き込まれたり、幕府に従おうとする人たちに殺されたりしかねないからである。
この力士隊が後に俊輔の大きな力になる。
先にあげた奇兵隊のように、長州には様々な隊があった。
『尊王倒幕』は幕府を倒して、天皇中心の国を作ろうとする考え方である。
この考えは諸隊だけでなく、公家たちも持っていた。
三条らは八月十八日の政変で京都から追放され、今は長州に身を寄せていた。
長州諸隊は三家老を切腹させ、幕府に従う意志を見せた長州藩の上層部に不満を持ち、それを訴える文書を出した。
しかし、幕府恭順派の家臣たちは諸隊の意見を聞くどころか、諸隊を解散しろと言ってきた。
もし、言うことを聞かないなら武力を持って解散させるぞとの脅しも添えてあった。
諸隊は相談しあい、三条らをお連れして、山口から長府に向かうことにした。
俊輔も力士隊を率いて、諸隊と共に三条たちを守りながら長府に行った。
この一カ月後、俊輔の運命を変える出来事が起きる。
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