第45話 功山寺決起 1

 筑前に身を隠していた高杉が、諸隊が長府に移った日に、下関に戻った。


 この時、奇兵隊の三代目総督・赤禰武人あかね たけとらは、諸隊と藩の上層部との関係を良くしようと話し合いに行っていた。


 高杉が諸隊を率いる人たちに会うと、彼らは赤禰の話し合いがうまくいかなかったら、幕府側の派閥に協力する役人たちを暗殺する計画を立てていた。


「暗殺なんてやめておけ。全員一致で決起しなければ意味がない。兵力を分散ぶんさんするのは危険だし、なにより暗殺などという姑息こそくな手段を取るべきじゃない」


 高杉の言葉に、諸隊の者たちは耳を傾けた。


「解散させられないためにも、諸隊が一致してすぐに挙兵きょへいすべきだ」


 すぐにと高杉が言ったのは、諸隊の兵の家族に藩の上層部が圧力をかける可能性に気づいていたからである。


 実際、時間がつごとに、諸隊から兵が減り、諸隊に協力する者たちも減っていった。

 

 そして、十二月になって赤禰が萩から長府に戻ってくると、赤禰は諸隊にこう報告した。


「三条公たちが安全に九州に移ったら、諸隊は存続していいし、藩士に取り立てるという話になった」


 実は三条たち尊攘派公家の安全を守るため、福岡藩や中岡慎太郎なかおかしんたろうら脱藩浪士たちで話し合いが行われていたのだ。


「これまでお世話になった長州藩が、幕府派と討幕派に分かれて藩の中で戦いになりそうな中、それを放置ほうちして九州には行けません」


 三条はそう主張していたが、赤禰の言う通りだとすれば、これまで三条たちを守ってくれた諸隊も存続を許され、安心して長州を離れることが出来そうだった。


 しかし、高杉は赤禰の持ってきた話を信用しなかった。


「聞多が強く提案していた『武備恭順』や牢に入れられた討幕派の高官の処分はどうなるという話だった?」

「それについてはハッキリとは……」


 赤禰の煮え切らない返事に、高杉はさらに不信感を強めた。


 だが、赤禰側も不満があった。


 今の奇兵隊を率いるのは赤禰である。


 高杉が創設者であろうと今の奇兵隊の総督は自分であるという思いが赤禰にはあり、独断で物事を進めそうな高杉が奇兵隊に戻ることを拒絶した。


 ところが高杉には人を惹きつけるカリスマがあった。


 諸隊を率いる者たちは、高杉がいることを歓迎しており、赤禰の思う通りにいかなかった。


 そんな状況が続いたある日。


 俊輔がちょっと下関に行っていると、高橋熊太郎という遊撃隊の軍監が俊輔を呼びに来た。


「高杉さんが今夜、兵を上げるから戻って来いと呼んでいるぞ」

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