第40話 下関戦争と講和 2

 高杉は脱藩の罪で野山獄に入ることになり、その後、謹慎処分となった。


 その謹慎の間に、京都では禁門の変で久坂玄瑞ら仲間が死に、下関戦争の後半戦が起きていた。


 そして、8月8日。

 

 24歳の高杉は長州藩家老・宍戸備前ししどびぜんの養子・宍戸刑馬ししどけいまを名乗って、四か国との和議交渉におもむくことになった。


 なお、この時、俊輔は22歳、聞多は27歳。

 まさに若者が時代を動かす時代である。


 一行は夜に出発して、長府ちょうふに着き、情報を待っていた。


 ところが、待っている時に、たまたま下関のほうを見ると、威嚇いかくのためか外国船から一発の砲弾が撃たれ、下関の街中に落下した。


「なんてことを!」


 街の中に砲弾が落ちる様子を見て、俊輔は驚いて立ち上がった。


 戦いの最前線である砲台ほうだいにいるのは、訓練された兵隊だが、街中には戦闘員せんとういんではない普通の人々が住んでいる。


 砲弾が落ちて建物に当たったり、燃えたりしたら、そういった兵士ではないの人たちが犠牲ぎせいになる。


 幕末の頃はまだ家は木と紙で出来ており、火事になると、かなりの犠牲が出た。


 一刻も早く戦いをやめないと、人々に犠牲が出ることになってしまうかもしれない。


 俊輔はいてもたってもいられず、自ら動くことにした。


「高杉さん、聞多。下関にまた砲弾が降ってきて街が焼き払われた大変だ。僕は一足先に外国艦に行って、砲撃をやめてくれと言ってくる」


「外国側が話を聞いてくれる見込みこみはありそうなのか?」


 高杉の問いに俊輔はうなずいた。


「あると思う。仮に見込みがなくても、このまま下関の町が撃たれるのを放ってはおけない」


 何もしないまま座っている気にはなれず、俊輔は出かける準備を始めた。


「もし、そのまま和議交渉に持ち込めそうなら、艦から空砲を一発撃ってもらうから、それを合図にして高杉さんたちは来てください」


 空砲とは実弾をこめないで大砲を撃つことである。


 弾は飛ばず、ただ音だけがする。


 そのため、俊輔はそれを合図にしてくれと言ったのだ。


 俊輔は敵意てきいがないことを示すために、刀を置いて漁船に乗り込んだ。


 そして、四か国連合艦隊の旗艦きかんユーライアラス号に近づき、アーネスト・サトウに面会を申し込んだ。


 サトウとの縁にけたのだ。


 すると、ユーライアラス号の甲板からサトウが顔を出した。


「やあ、伊藤さん。どうです、もう戦いにはきましたか?」


 笑いながら聞くサトウに俊輔は即座にうなずいた。


「まったく飽きてました。なので、和議の相談に来たんです」

「なるほど。まあ、お上がりなさい」


 サトウは俊輔をユーライアラス号の中に招き入れた。


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