第35話 イギリス留学 3

 大学以外でも五人は外国の進んだ文明を目にした。


 街中でもウィリアムソン教授の家でもそうだし、五人で出かけた博物館はくぶつかん造船所ぞうせんじょでも日本とはまったく違う進んだ文明を目にした。


 日本の次の時代のために、大学や本とは違う知識をようと五人はいろいろなところに出かけたのだが、そこでの刺激しげきは大きかった。


 造船所に特に興味を示したのは庸三だった。


「すごいな……」


 庸三はイギリスの優れた造船技術に目を見張った。


 世界に羽ばたく海洋大国かいようたいこくであったイギリスは大英帝国だいえいていこくと呼ばれ、航海のため、貿易のため、戦争のため、高い造船技術を持っていた。

 

 船のスクリュープロペラを考えたのもイギリス人であり、イギリスは世界一の造船国と呼ばれていた。


 それに比べて、黒船来航くろふねらいこうで初めて蒸気船を見た日本人はまったく遅れていた。


 幕末、俊輔たちが日本を出る前にも蒸気船の試作しさくは各藩で行われていたが、そんなことが子供のおもちゃに思えるほど、イギリスの技術は進んでいたのである。


「船を作ってみたいのか?」

「いや、そこまでは決めていないが。でも、いいな。イギリスの造船はすごい!」


 同じく見学に訪れた先のものに興味を持ったのが謹助だった。


 俊輔たちは新しい金融きんゆうを学ぶため、イングランド銀行や造幣局にも行った。


 謹助は造幣局では足を止めて、様々なものに、じっと見入っていた。


「謹助は造幣に興味を持ったのか?」


 熱心に造幣の機械を見つめる謹助に聞多が声をかけると、謹助ははにかんだように微笑んだ。


「そうだね。日本の近代化には必要なものだし、興味があるし……」

「俺は銀行や金融に興味を持ったから、何かあった時は一緒に仕事をすることになるな!」


 話に花を咲かせる二人を見ながら、俊輔は勝に尋ねた。


「勝は何をやりたいとかあるのか?」

「それはもう決まってるだろ! 俊輔もイギリスに着いた時、感動したろ!」


 わかるよな! というノリの勝に俊輔は確認する。


「それってあの……」

「そう! 汽車だ!」


 勝はイギリスに着いてすぐに乗った汽車に心惹かれていた。


 日本にはない鉄の乗り物。


 それがイギリスには張り巡らされている。


「いつか日本もイギリスのように、汽車でいろんな地方に行けるような国にしたいな!」


 それぞれが目標とする専門のことを見つける中、俊輔と聞多は三人とは違う方向に進んでいった。


 西洋の技術よりも西洋の政治体制そのものに興味を持ったのである。


 しかし、聞多と俊輔にはゆっくりとそれを学ぶ時間は与えられなかった。


 長州が外国と戦争を始めたというニュースを知ったからである。


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