第3話 俺は武士だ! 2
九歳の時、利助は
ただ、父はまだたくさん稼げるようになったわけではなかったので、母の伯父が住職をしている法光院という寺を頼ったが、利助はもう九歳ということで
奉公とは他の家に住み込みで働くことである。
お金のある家の子は、自分の家で暮らせるが、家に子供に食べさせる食べ物もないような貧しい家は、子供が奉公先でご飯が食べられるよう、奉公に出さないといけないのだ。
利助は食べるために奉公に出され、いろいろな家を転々とさせられた。
ある日のこと。
一人息子の利助が奉公先でどうしているか心配になった父・十蔵が利助の奉公先を見に行くと、利助は一人で留守番をさせられていた。
遊ぶものも話し相手もなく、ただ一人で寂しく玄関そばの一室で留守番をしている。
父はそっと
「お父さん!」
利助が懐かしさのあまりうれしくなって泣き出してかけよろうとすると、父は利助を
「お前はご主人から留守を預かっているのだぞ。その大役をきちんと務めなさい」
父から叱られた利助は、しゅんとなり、とぼとぼと留守番に戻った。
しかし、父もわざわざ奉公先まで利助の様子を見に行っているのだから、一人息子が可愛くないわけではない。
むしろ可愛いからこそ、ちゃんと務めを果たすよう教えたのだ。
利助の奉公生活はその後も続く。
留守番をしていた時の奉公先は福原家という家だったが、次は井原家という家に方向に出された。
ある寒い雨の日。
奉公している家の主人が、知り合いの家に行って話している間に雨が降り出したので、
足駄は昔はよく履かれていたもので、『箱根八里』という
翌日、利助はそれを借りた家に帰すように命じられ、その家に傘と足駄を返しに行ったが、その帰りに雪が降ってきてしまった。
萩は海が近く、風が冷たく、気温も低い。
しんしんと降る雪の中、服がみすぼらしい利助は、手足がちぎれそうなほど寒かった。
あまりの寒さに、少しだけでも暖まろうと、利助は自分の家に立ち寄った。
その時、母が家にいたのだけれど、母は利助が主人の使いの帰りに立ち寄ったと聞いて、利助を家に入れなかった。
「あなたはまだ
早くきちんと奉公先の主人のところに戻りなさいと母が利助を追い出した。
唇が紫になり、体の冷えた利助を家から追い出すのは、母も辛かった。
でも、帰るのが遅くなって何をしていたんだと奉公先の主人に怒られたら大変である。
当時は叩かれるなどよくあることで、特に利助のように低い身分の人間は理由なく殴られても文句を言えなかった。
理由があったりしたら、どれだけ殴られても、食事を与えられなくても文句が言えない時代である。
また、父同様、主人からの使命を果たすことの重要性を利助に伝えたい気持ちもあった。
母はわざと利助を厳しく追い出し、そっと利助が奉公先に戻るのを見送った。
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