1 このヒーラー無能につき (2)


 ヒロキ・サクライ

 レベル:1

 職業:プリースト

 攻撃:1

 防御:1

 命中:1

 魔力:1

 回復:100

 回避:1

 スキル:言語習得(パッシブ)・ヒール・リジェネ

 ステータスポイント:50


 ……だいぶ偏ったステータスだ。

 言語習得を見て、初めて言葉の壁に気づく。普通に会話ができたので気にしなかったが、確かに相手が日本語を話しているわけがない。

 それから、回復のヒールに、回復持続のリジェネ。この世界で生きていくのに、どちらもあった方がいいスキルだ。何かあったときに、自分で治療できるのは強い。

 プリーストということは、回復職。つまりは……。

「ヒーラーか」

 ぼそりと俺が呟くと、おぉっと周囲から歓声が上がる。

「回復職とは、めずらしい。ヒーラーの上位職にはプリーストというものがあり、極めればどのような怪我も治癒することが可能になる。世界に数人しかいませんが、勇者様とともに召喚されたのですからきっとプリーストになることができるでしょう。そうなると、我が国で初めてのプリーストですな!」

「そうですか……」

 ゲームの癖でヒーラーって言ったけど、ヒーラーはプリーストの下位職だったのか。

 勘違いしてくれているなら、そのまま勘違いさせておくのがいいだろう。

 俺はプリーストではなく、ヒーラーで通すことにした。

 さらりと流してしまったが……あの男は、この国にプリーストはいないと言ったのだ。他国にはいるらしいが、それでもレア職であることに変わりはない。

 不利にならないよう、自分の情報は極力相手に伝えない方がいいだろう。

「私はウィザードです」

「おぉ、それはマジシャンの上位職になります。素晴らしい!!」

 次に、小鳥遊さんが職業を告げた。そして俺と同じように、ざわめきと歓声が起こる。

 最後は、渡辺くんだ。

「僕は勇者みたいだ……」

「おお、ワタナベ様が勇者様でしたか。うむうむ、バランスの取れたパーティで、大変よろしい」

 困惑している渡辺くんは、不安げにステータスを見ていた。

 一番プレッシャーのかかっている職業なのは可哀かわいそうだと思うが、正直この三人の中で一番勇者らしさはあると思う。

 こう、規律に厳しい生徒会長タイプと言えばわかりやすいかもしれない。

「レベルが上がると、ステータスを任意に上げていくことができます。忘れないようにしてくださいね」

 細い男が告げると、渡辺くんは困惑した表情でステータスを見た。どうやら、ゲームなどの知識はあまりないみたいだ。

「自分で上げるんですか……。確かに、ステータスポイントが50ありますね。でも、どれを上げたらいいのか」

「なんと、ステータスポイントがあるのですか? 召喚した勇者様だから、持っているのかもしれませんね。普通は、レベルが上がるとポイントを得ることができるのです」

 渡辺くんの言葉を聞き、俺も自分のステータスウィンドウをもう一度確認する。確かに、下の方にステータスポイントの表記があり50になっていた。

 なるほどなるほど、これならばかなり自由度が高そうだ。

 とはいえ、割り振るにはまず確認することがある。

 俺は細い男に疑問を問いかけた。

「あの、ステータス値の平均はどれくらいなんですか?」

「攻撃職でしたら、重要な攻撃のステータス値は20~30程度です。その職業で重要なステータス値が50を超えていればだいぶ強く、一流だと名乗って差し支えありません」

「50……」

 その言葉を聞き、確かにプリーストは上位職なのだと納得する。

 回復力が50で一流なら、100ある俺はいったいどれだけすごいのか。おそらく、回復はこれ以上上げなくても十分だろうが……検証はしておきたい。

 そしてふと、自分の古傷を思い出す。

 幼い頃、交通事故に遭ったときにできた腕の傷だ。治りはしたものの、肩から腕の途中まで傷跡が残っておりひどく痛々しい。夏でも半袖を避けるほどには、気にしている。

 スキルを試すのであれば、ちょうどいい。

「【ヒール】」

 俺は誰にも聞こえないように、小声で唱える。

 すると、体が温かさに包まれ古傷が消えた。現在進行形の怪我だけではなく、古傷を治すことができるのは相当すごいのではないだろうか。

 細い男の話だと、ステータス値が30あれば十分。今の俺は、100もある。よって、これ以上の回復値は不要だと判断した。

 俺はボーナスポイントをステータスに反映させる。


 ヒロキ・サクライ

 レベル:1

 職業:プリースト

 攻撃:1

 防御:1

 命中:1

 魔力:1

 回復:100

 回避:51

 スキル:言語習得(パッシブ)・ヒール・リジェネ

 ステータスポイント:0


「ん、これでいいか」

 俺は回避に極振りする。

 回復職に求められるのは、まず第一に死なないこと。そして第二に立ち回り。そして第三に、回復力だ。──と、俺は思っている。

 死なないために必要なのは、防御力だと誰しも考えるだろう。攻撃されても、体力が多く耐えられる方がいい。まあ、誰もがそれを最初に考える。

 もちろん、それが大事だということは俺も理解しているつもりだ。

 敵にターゲッティングされ、まっ先に死ぬヒーラーほど役立たずなものはない。

 しかし、それじゃあ面白くない。確かに防御力は大事だが、攻撃を受けてしまえばそれはダメージとなる。自分に回復魔法を使うと、その分ほかのメンバーに支援することができない。

 ならばどうすればいいのか?

 答えは簡単。

 けてしまえばいい。

 そうすれば、自分は攻撃を受けないから他者への支援に専念することができる。主流ではないかもしれないが、ヒーラーとしての理想形だとは俺の持論だ。

 攻撃を避けているのだから、ほかのメンバーが回復職を気にする必要はない。これはかなり、魅力的だ。さっさと敵をせんめつし、先へ進むことができる。

「……桜井さん、もうポイントを振ったんですか?」

 迷いながらステータスウィンドウを見ていた小鳥遊さんが、俺へと問いかけてきた。こういったことに不慣れで、どうすればいいか困っているのかもしれない。

「うん。全部、回避に振りました」

「回避? 避けるってことですか?」

「そうです」

 首をかしげながら確認してくる小鳥遊さんに、俺は頷く。すると、大きな声が響き渡った。

「な、な、な、なんですとおおおおぉぉぉ!? サクライ様、本当に回避にすべてを振ったのか!? ヒーラーといえば、回復に振る一択ではありませんか!! これでは回復力が足りず、役立たずもいいところだ!! なぜ実行する前に私へ聞かなかったのだ!」

「え……」

 先ほどまではどちらかといえば丁寧だった細い男が、ものすごい形相で俺をにらみ、早口でまくし立てる。別に回復が100あるのだから、問題はないのだけど……。

 さてどうしようかと思っていると、今度は玉座に座っていた国王が顔を赤くして立ち上がった。

「貴重なヒーラーだというのに、お前は馬鹿か!! そいつをろうに連れていけ! このように無能なやつが勇者一行だとは、なんということか」

「ちょ、王様! さすがにそれは横暴です、桜井さんにだって、きっと理由があるはずです!」

「私に指図するんじゃない」

 渡辺くんが俺を助けようとしてくれたが、国王に一蹴されてしまう。

 かくして、無能ヒーラーのらくいんを押された俺は牢屋に入ることになってしまった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る