第三話 死闘! 襲い掛かる野獣
面接から解放されたので、ギルドホールに戻り壁に貼ってある依頼をチェックする。
面接で時間が結構経ったせいか、ギルド内にいた冒険者がだいぶ減っていた。もうみんな依頼を受けて出かけたんだろう。
野ウサギの肉×5の収集という依頼があったので受付に持っていく。これならすでに持ってるし万一失敗しても大丈夫というチキンな理由だ。
「ウサギですか。野ウサギは素早いし捕まえるの大変ですよ?」
そう受付のおっちゃんが忠告してくれた。
「でもあいつら向かってくるから、あとは剣でさくっと切れば終わりなんで楽でしたよ」
なんかおっちゃん困った顔してる。
「野ウサギは格下の相手だと襲ってくることがあるんですよね……子供とかよく襲われるんですよ」
つまり俺は野ウサギより格下に見られてたってこと? 簡単に捕獲できるのは楽ではあるが、複雑な気持ちである。
「気をつけてくださいね。町から離れるとゴブリンやオークとかモンスターが出ますから。あとは夜は絶対ダメです。危険なのがいますから」
おっちゃんは急に心配になってきたようだ。
「大丈夫ですって。これでも腕には自信があるんですよ」
そう言って、おっちゃんを振り切って出発することにした。
おっちゃんに実は剣術レベル4(一流剣士)で火魔法レベル3(ベテランメイジ)なんですよなんて言っても信じないだろうしな。
町の外に出る前にまだやることがある。さすがに装備がショートソードと布の服だけでは不安なので装備を整えないと。お金はまだ1856ゴルド残ってる。
おっちゃんに武器と防具の店は聞き出してある。ぶっちゃけ冒険者ギルドの二軒隣にある。冒険に必要な店はだいたいギルド周辺に集まってる。便利である。しかも冒険者ギルドの至近にあるので良心的な商売をしてくれるという。初心者や田舎者だからといってぼったくられたりはしない素敵仕様である。
店内に入るとところ狭しと武器や防具が並べられている。きょろきょろ眺めていると店員が寄ってきた。
「本日は何をお求めでしょうか、お客様」
異世界なのに接客が行き届いてるな。こういう店はぶっきらぼうなドワーフが出てくるもんじゃないだろうか。異世界情緒がないにもほどがある。
「ええと、武器と防具を一式揃えたいなーと……」
「失礼ですが、初心者の方でしょうか。戦士でしたらそうですね。こちらの革の防具一式なんてどうでしょう。セットで大変お求めやすくなっております。こちらの盾なんかも合わせてお使いいただければ防御は安心でございますよ。あ、腰の武器を拝見しても。ふむふむ、これはなかなかいい品でございますね。これならメイン武器としては十分でございますよ。しかし予備の武器もお持ちになると安心です。こちらの剣などいかがでしょうか。ちょっと振ってみていただけますか? よろしいようですね。あとは弓や槍などいかがですか? 必要ない? 左様でございますか」
あっという間に一式揃えられ試着させられてしまった。
盾は小さめだが、腕に装着できるタイプで左手の自由がきく。剣は細身のアイアンソードで力のない俺でも楽々振れる。革の鎧もサイズぴったりのを揃えてもらった。
この店員なかなかできるな!
剣と盾、革装備一式で450ゴルド。値段もリーズナブルである。もう少し防御力の高そうな装備を見せてもらったが、金属製鎧は総じて重い。革の鎧も上等なものになると予算オーバーになるのでベストチョイスではなかろうか。
お金を払い、このまま着ていくと言って店を出た。
あとは食料品だな。近くの商店で調味料やら保存食、果物なんかを買いあさりアイテムにぽんぽん入れていく。
重いのでつい人前でアイテムボックスに放り込んでしまったが、みんな気にした様子もない。お金を払うときも普通にアイテムから直接取り出して、何もないところからお金が現れたように見えたはずだが、アイテムボックスって別に珍しくもないんだろうか?
装備で450ゴルド、食品で150ゴルド使い、残金は1256ゴルドになった。
東門から町を出る。今回はギルドカードがあるので見せるだけで通してくれた。
町の外に出ると道を外れて人のいないところまで歩く。野ウサギ狩りの前にまだすることがある。
習得した火魔法の練習である。
はやく試してみたくてうずうずしてたんだが、町中で火をぶっ放すわけにもいかない。MPは23となっている。一日で全回復するくらいだろうか。これはかなり節約して使わないとまずいかもしれない。とりあえずメニューでスキルをチェック。
【火魔法レベル 】
①火矢 ②火球 火槍 ③火壁 小爆破
番号からすると火矢がレベル1の魔法だろう。右手には剣を持ってるから左手を前に出して【火矢】と念ずると魔法が発動したのがわかった。
左手の少し前方にダーツのような形状の炎のかたまりが浮いている。
近くにある岩目がけて発射するときっちり命中した。速度もそこそこあるようだ。火矢でMP3消費。残りMP20。火矢であと六発、おそらく他の魔法はもっと消費が多いだろうから節約して使わないといけないな。
しかし魔法は楽である。呪文や面倒な手順もなしに、考えるだけで発動するのは簡単すぎて拍子抜けする。みんなこうなのか、それともスキルの恩恵なのか。まあ修行しなきゃ使えませんとかになったら困るから助かるんだけど。
魔法のテスト後、歩くこと一〇分。野ウサギに遭遇した。
そして襲ってきやがったので剣でさっくり倒した。
昨日はちょっと罪悪感を感じたものだが、こちらを格下認定して襲ってくるとわかったからには容赦しない。絶対にだ!
その後も立て続けに野ウサギは現れたのですべて一撃で屠る。野ウサギの集落でもあるんだろうか。一〇匹目を倒したところでレベルアップした。ステータスをチェックしたいが野ウサギを警戒してるので後回しだ。
一一匹目を倒したところで腕が重くなってきた。一二匹目、一三匹目と連続で現れたのを倒したところで体力が尽きた。
腕が上がらない。足ががくがくふらふらする。
なんだこれ。まるでマラソン完走直後みたいだ。
アイテムに初心者用ポーションがあるのを思い出した。だが取り出したところでやつがまた現れた。そして当然襲ってくる。
あせってポーションを飲もうとしたところに頭突きを足に食らった。衝撃でポーションを落とす。
膝をついたところでやつは再度突っ込んできた。今度は顔めがけて。
とっさに剣を前に突き出すと、そのまま剣に貫かれぎゅーっと鳴いて息絶えた。
野ウサギの刺さった剣を落とし肩で息をする。やばい、倒れそうだ。
ポーションをアイテムからもう一本出して飲む。体力が少し戻ってきたのがわかった。野ウサギをアイテムに収納し、落とした剣とポーションを拾って立ち上がる。
二本目のポーションを飲んでも体力が回復した感じがしない。たぶん、あと二、三回剣を振るえばまた倒れる。
くそ、急いでここを離れないと、またやつがくる。
ゆっくり来た道を戻る。倒しながらここまで来たから同じ道を戻ればやつらが現れる確率は低いはず。
物音を立てないようにゆっくりと草原を進む。だが無情にもやつは現れこちらに気がついた。
突っ込んでくるのを横にかわして避ける。くそ、やるしかないのか。
もう一度突っ込んでくるやつに剣を振るい倒す。一回剣を振るうだけで体力がごっそり減ったのがわかった。足がふらつく。倒した野ウサギは放置して初心者ポーションを飲む。しかしやはり効果はでない。
くそ、欠陥品かこれ!?
再び町に向かって歩き出す。
出るなよ、出るなよと祈るが数分後またやつが出てきた。そして襲い掛かってくる。なんとかかわす。どうする、おそらくあと一回剣を振るえば体力は尽きる。
そうだ、魔法だ!
とっさに【火矢】を唱えて放つ。しかし外れる。もう一発【火矢】!
今度は命中し、やつは倒れる。必死に町に向かうが、やつらは次々に襲ってくる。
ついに町の門が見えた。
だが、安心したところにやつは現れ、俺は最後のMPを振り絞り野ウサギを倒して意識を失った。
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