第二話 魔眼はハーレムの夢を暴く

 夕食を一階の食堂でとることにする。

 日替わり定食にお酒をつけて8ゴルド。定食は謎肉のステーキに野菜たっぷりのスープにパン。お酒はワインだった。肉がなんの肉かはおばちゃんたちが忙しそうにしてて聞けなかったが、なかなかボリュームもあって美味かった。

 安くて美味いという話は間違いなかったようだ。


 部屋に戻ってメニューを開いてみると【クエスト】という項目が点滅していた。


【報告日誌を書こう!】

 その日あったことや考えたことを日誌に書こう。専用ノートに書けば自動的に神様に報告される。

 報酬スキルポイント 10P

 クエストを受けますか? YES/NO


 即YESを選ぶと、ノートと筆記具がアイテム欄に出たので出して今日あったことやスキルに関して考察したことを一〇分ほどかけて書いた。

 練習がてらこちらの言語で書いてみたが、やはりほとんど日本語と変わらないくらい使いこなせるみたいだ。書き終わったのでアイテムに収納するとクエストの表示が変わってスキルポイントが10P増えていた。


【報告日誌を書こう!】

 クリア!

 日誌はなるべく毎日書こう(推奨)日誌は神様が目を通します。

 要望などがあれば書くといいことがあるかも!


 月給二五万の仕事だと思えばこれくらいはやってもいいな。序盤のスキルポイントの支給は助かるし。さて何を取ろうか。


 スキル 11P

 剣術レベル4 肉体強化レベル2 スキルリセット ラズグラドワールド標準語

 生活魔法 時計


 MPの件もあるし剣術を取ろうと思ってたけど、せっかく異世界に来たんだしやっぱり魔法も使ってみたい。

 魔法を見てみると、火水土風、回復魔法などが5P、空間魔法、精霊魔法、召喚魔法、闇魔法、光魔法などが10Pとなっていた。10Pの魔法には心惹かれるものがあるが、ここは地道に5Pの魔法だろうな。火水土風のどれか一系統を取ってみるか。

 火魔法が攻撃力がありそうに見えたのでさくっと選択。合計10P消費してレベル3まであげる。


【火魔法レベル 】

 ①火矢 ②火球 火槍 ③火壁 小爆破


 取った魔法を確認してみる。さすがに部屋でテストはできそうにない。

 あたりはすでに暗くなっていたので布団にもぐりこむ。部屋には明かりになるようなものはなかったし疲れてもいたのでさっさと寝た。


  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 翌日、朝食をとったあとギルドに向かう。

 冒険者ギルド周辺には昨日より多くの強そうなごつい人たちがたむろしていた。なるべく目を合わせないようにして中に入る。こっちは身長一六〇センチ、体重五〇キロのちびのもやしである。絡まれたりしたらワンパンチでやられるのは確実だ。

 しかも剣やら槍やら装備しててすげー怖い。怒らせたら死ぬ。

 中はそこそこ混み合っていたが、幸い皆忙しいらしく、こちらのことはほとんど気にも留めてないようだ。

 なんとか受付カウンターにたどり着き、地味な感じのおっちゃんに声をかける。

 他にもあいてる受付の人はいたが、女性やらごつい兄ちゃんばっかで一番話しかけやすそうだったからだ。

 冒険者になりたいと伝えると馬鹿にした風もなく、丁寧に対応してくれた。

 うむ、このおっちゃん選んで正解だったな。    

 面接があるとのことで奥に案内された。昨日の伊藤神との面接後、すぐさまこの世界に送り込まれたことを思い出した。それが顔に出たのだろうか。

「冒険者ギルドで身分証を発行するのにちゃんとした人かどうかの簡単な審査があるのですよ。なに、犯罪者だとかじゃない限り心配ありません。ではここで少しお待ちください」

 なだめるようにそう言うと、おっちゃんは受付のほうに戻っていった。ほどなく禿で凶悪な面をした中年の男が中学生くらいのかわいい女の子を従えてやってきた。

「ようこそ冒険者ギルドへ、若人よ! 名前は?」

 禿がでかい声で聞いてきた。

 目の前に来るとでかくて威圧感が半端じゃない。

「ま、マサル。山野マサルです」

「マサルか。おれは副ギルド長のドレウィン。こっちは三級真偽官のティリカだ。まあそうびびるな、ちょっと話を聞くだけだ、がははははは」

「三級真偽官?」

 わからない言葉が出てきた。

「ん? 真偽官を知らんのか。どこの田舎から来たんだ」

「はあ、日本の○×ってとこですけど……」

「ふむ、聞いたことないな。まあいい」

 いいのかよ!

「真偽官ってのは嘘を見抜く魔眼持ちのことだ。今から質問するから正直に答えろよ、坊主」

「心を読むんですか 」

「心は読めない。本当のことを言ってるかどうかがわかるだけ」

 女の子が初めてしゃべったよ。声もかわいいな。

 改めてじっくり見ると美少女だ。ショートカットがよく似合ってる。色が白くて体が細い。中学生くらいかと思ったが下手したら小学生くらいかもしれん。目の色が赤と青でオッドアイになってる。これが魔眼だろうか。

「あんまり見つめるな、ティリカは恥ずかしがりやだからな!」

「あ、すいません」

 すぐに目をそらす。この禿、見た目怖いから、できればティリカちゃんを眺めていたかったがそうもいかないようだ。

「うむ。では質問だ。犯罪歴はないか? どこかの国のスパイじゃないな? 誰かに恨みを買ってないか? 殺したいほど憎いやつはいないか?」

 犯罪もしたことないしスパイでもない、恨みも買った覚えはないし殺したいほど憎いやつもいないと答える。ちらちらティリカちゃんを見てると、ぼーっとした顔でこちらを見ているのみ。

 あれで魔眼が発動してるのだろうか。

「なんで冒険者になりたいなんて思った?」

「お金を稼ぎたかったのと、生き延びるために自分を鍛えたかったんです」

「それなら普通に働いたほうが安全だぞ、坊主」

「楽に稼げる仕事があればそっちのほうがいいですが、冒険者が手っ取りばやそうだったので」

「そうだな、そんないい仕事があればおれにも紹介してもらいたいもんだな、がはははは。それで稼いでそのあとはどうするんだ?」

「そうですね、どっかに家でも買ってのんびりしたいですねー」

「若さがねーな、若さが。もっと他に望みはないのか? 一番やりたいことはなんだ? 一国一城の主になりたいとか英雄になりたいとか」

「あー、えーとですね……」

「んん、正直に言っちまいな。どうせ嘘はばれるんだしよ」

「は……」

「は?」

「その、ハーレムを……」

「わははははー。そうかそうか。若いな! 坊主。わははははは」

 あ、ティリカちゃんが蔑んだ目でこっち見てる。

 でも異世界だもの、少しくらいはっちゃけたっていいだろ!

「この国ってそういうのありなんでしょうか?」

「おう、甲斐性さえありゃ何人女を囲っても問題ねーぜ! 一夫一婦制なんて言ってるのは教会の坊さんくらいだな! おれも嫁さんは二人だしよ。よし、面接はこんなもんでいいだろ。身分証は発行してやる。身元はギルドで保証してやるから面倒は起こすなよ?」

「ええ。でもこんなんでいいんですか? もっと身元とか経歴とか聞いたり……」

「ああ、過去のことは関係ないぜ。冒険者なんてのはろくでもないのばっかりだ。過去に多少悪さをしてても指名手配とかじゃなければ問題ない。あとはギルドのルールさえ守ってくれればお前も冒険者ギルドの一員だ!」


 そのあと受付のおっちゃんのところでギルドカードの発行をしてもらい、色々な説明を一時間ばかり受けた。

 カードの発行に100ゴルド。名前を書いて、血をとってカードにつければ登録完了。

 カードには名前とランクFとしか書いてない。紐をつけて首からつるす。

 ルールはギルド員同士で喧嘩するなとか法律守れとか常識的なものばかりだった。あとは依頼のシステムとかギルドランク。ランクはSがトップであとはABCDEF。もちろん俺は最下級のFランクスタートだった。依頼をこなすことで階級を上げていく。

 うん、よくあるシステムだな。テンプレテンプレ。

 最後にもう一回、禿とティリカちゃんのところに連れていかれた。

「ギルドルールをなるべく守ることを誓いますか?」

 そうティリカちゃんが質問をしてくる。

「はい、誓います。でもなるべくでいいんですか?」

「うむ。絶対誓うと言わせると半分くらいのやつは審査にひっかかるのだ! 全部のルールを完璧に守るなんて普通の人間には無理だからな! 無理のない範囲で守ればいい、いいな?」

「はい」

「あとは何かトラブルがあったら一人で解決しようとせずにギルドに相談しろ」

「わかりました。結構親切なんですね」

「お前らに任せとくとトラブルが拡大するばかりだからな! あと坊主は初心者講習会を受けておけ。次は何日後だ?」

「三日後ですね」

 そう横にいる受付のおっちゃんが答えた。

 運転免許でやるようなやつかな?

「無料で一週間かけて冒険者としての訓練をみっちりやってもらえるすばらしいシステムだ」

「一週間!?」

「そうだ。まあ一週間じゃ全然足りんがないよりマシだ。強制じゃないがなるべくなら受けておけ」

「考えときます……」

 実戦に出てレベル上げしてポイント振れば訓練なんか必要ないし。無駄な時間をすごす必要はないだろう。

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