第一話 明日から本気を出す

 とりあえずアイテムを確認する。


 アイテム 2000ゴルド

 野ウサギの肉×5 野ウサギの毛皮×5

【キャンプセット】

 普通の服 ブーツ ナイフ 初心者ポーション×10


 今の服装はグレーのパーカーにジーンズ、靴はサンダルだ。アイテムから服とブーツを取り出して着替える。

 服は少しごわごわするが丈夫な布でできている。ブーツはごく普通の皮のブーツのようだ。サイズはぴったりだった。普通の服と書いてあったのでたぶんこれで町でも目立たないだろう。キャンプセットに水筒があったので水魔法で補充し、喉の渇きを潤す。ようやく落ち着いてきた。

「とりあえず町だ。ウサギですら襲い掛かってくるようなところに長居はできん」


 歩いて三〇分ほど、遠くに壁が見えてきた。どうやら町は高い壁に囲まれているようだ。近寄ると左手のほうに門らしきものが見えたのでそちらに向かう。さらに近づくと道があって、門には槍を持った兵士が二人立っていた。

 彫りの深い顔立ち、どうみても外国人だな。

「身分証を」

 スキルにあったラズグラドワールド標準語の効果で言葉は理解できた。

「どうした、身分証は持ってないのか? ならこっちだ」

 兵士の一人に門の横の建物に連れていかれる。

「字は書けるか? これに名前と出身を書いてくれ」

 そう言ってノートを差し出された。

 文字も読めるし、書けそうな気がしたのでペンをもらって名前を書いてみる。普通に文字も書ける。理解もできる。英語は苦手だったが、語学が堪能ならこんな感覚なんだろうか。スキルによって日本語と同じようなレベルで読み書きができるようだ。

 出身はどうしよう……とりあえず日本の実家のある地名を書いておく。

「ヤマノマサルか。ふむ? 聞いたことのない地名だな」

「ええ、田舎のほうなんで、へへへ」

 どうやらそれで納得してもらえたようだ。ちょろいな。

「ここへは何をしにきた?」

「ええと、冒険者ギルドに行こうかと」

「田舎から冒険者になりにきたのか」

 じろじろと無遠慮に眺める兵士。

「町への入場料が10ゴルドだ。ギルドで身分証を発行してもらえれば、以後入場料はタダになる。一応聞くが犯罪歴はないな?」

「はい、ありません」

 メニューを開いて『10ゴルド』と考えると手のひらに硬貨が収まっていた。銅貨のようだ。10枚あるから銅貨一枚が1ゴルドか。兵士に数えながら手渡す。

「よし、シオリイの町に歓迎する。ギルドの場所は門を抜けてまっすぐいけばわかる。腰の剣は町では抜くなよ。武器や魔法を使った喧嘩は町では禁止だ」


 町中はそこそこ賑わっていた。

 門の近くには露店が並んでいて、食べ物やよくわからないものを売っていた。

「よう、そこの兄ちゃん買ってかないか? ウサギ肉が焼きたてでうまいぞ。一本

 そういえば今日は家を出てから何も食べていない。

 1ゴルドをアイテムから出して串を一本もらう。いい匂いだ。塩味でやわらかい肉の香りが口いっぱいに広がる。気に入ったので五本追加で買って歩きながら食べる。

 言葉も通じるし食べ物も悪くない。串一本1ゴルドで一〇〇円として所持金2000ゴルドで二 〇万円。当面の生活は大丈夫そうだな。

 食べ終えた頃に、大きく立派な建物が見えた。看板にはシオリイ商業ギルドと書いてある。さらにその隣に冒険者ギルドと書いた建物があった。武器を持った柄の悪い連中が出入りしている。

 入り口で入ろうかと迷っていると、ごついのに睨まれたので思わず回れ右してしまった。

 冒険者ギルドは明日にしよう、うん。まずは宿だな。いいんだよ、明日から本気だすから!

 道を戻って串焼きを買った屋台のおっちゃんにいい宿がないか聞いてみると、竜の息吹亭という冒険者御用達の宿を教えてもらえた。一泊朝食付きでゴルド。昼と夜は食堂があるのでそこで金を出して食うのだが、安くて美味しい料理を出してくれるんだそうだ。


 店はほどなく見つかった。

 この町、区画整理が行き届いているのか、道がまっすぐ整備されていて初めてでも迷子にはなりそうにない親切設計だ。宿は二階建てで店内は結構広い。カウンターとテーブル席で五〇人くらいは座れるだろうか。五人ほど、まばらに客が座っている。

 店に入ると貫禄のあるおばちゃんに出迎えられた。

「いらっしゃーい。あいてるとこに座っとくれ」

「宿を取りたいんですが」

「あんたー、宿のほうのお客さんだよ」

 奥から禿げたひょろっとしたおっさんが出てきた。

「一泊20ゴルドで朝食が付きます。昼と夜は食堂がありますのでそちらで注文を」

 聞いていたとおりの内容なので一泊を頼み20ゴルド払って二階の部屋に案内してもらう。

 ベッドが一つだけある小さい部屋だが掃除は行き届いているようで安心した。シーツもきちんと洗濯されてるようだ。

 鍵はないが内からカンヌキが掛けられるタイプで安心できる。ブーツを脱ぎ、ベッドに寝転がりメニューを開く。


 HPとMPが回復してるな。時間経過で回復するんだろうか。このあたりも調べておかないと。だが最優先はスキルだ。


【剣術レベル 】

 剣を扱うスキル。一般兵なみの剣術。


【肉体強化レベル 】

 力と体力、HPに+100パーセントの補正。


 サービスでつけてもらっただけあって二つともかなり使えるスキルだ。

9Pしかない現状、方向性は二つ考えられる。いまある剣術と肉体強化を上げるか、ステータスの高い魔力を生かして魔法を覚えるかだ。剣術を2から3で3P。4はたぶん4Pだろう。

 魔法なら火魔法の取得に5Pでレベルを2に上げて計7Pになる。魔法を覚えるにしても問題は消費MPだな。ちょっと調べてみるか。

生活魔法の三つのうち、火と水は部屋では使えないので浄化魔法でテストをすることにした。

 現在のMPは25。とりあえず体に浄化をかけてみる。うん、なんとなくすっきりした気がする。汗臭さがなくなったようだ。MPは22に減っていた。

 歯を磨いてないことを思い出して口の中を浄化してみる。一瞬で口の中がすっきりした。これは便利だな。歯がつるつるになってる。MPは21になっていた。浄化の面積によって変わるんだろうか。

 この部屋を浄化できるかな? そこそこ綺麗な部屋ではあるが、土足なので床は汚れている。体の五倍として15くらいMP使えばなんとかなるか?

 浄化を床にかけてみるとピカピカになっていた。そのまま寝転がっても大丈夫なくらいだ。MPはちょうど15消費して残り6に。消費MPの調節も簡単にできるみたいだな。指定がなければ自動で必要量が消費されて指定があればそれに従う感じだろうか。

 残りMP6で着ている服に浄化をかけてみる。

 使った瞬間ヒザががくりと落ち、床に倒れこみそのまま意識を失った。


 床で目を覚ますと夕方のようだった。頭が重い。MPが切れたせいで気絶したのか?

 床を浄化しといたのは不幸中の幸いだった。MPは3回復している。MPを使い切るとやばい。魔法はもうちょっとMPが増えるまで覚えるのはやめておこう。

 剣術に7P振って残り2P。何かないかと探すと時計1Pというスキルがあったので入れてみると、日付と時間がメニューに表示された。それによると今は六一三年九月一一日一七時八分。日本だと夏の終わり頃か。そういえばすごしやすい気温で気候的には秋っぽい感じだな。


【時計】

 日付と時間をメニューに表示する。目覚まし機能付き。


【剣術レベル4】

 剣を扱うスキル。一流の剣士相当。


 アイテムから銅貨を一枚取り出す。天井に向かって指ではじく。剣を抜いて銅貨を斬りつけ鞘に収める。いわゆる居合いだ。床に落ちた銅貨は見事にまっぷたつになっていた。その技量はまさしく一流と呼ぶにふさわしく思えた。

「すげえ。剣道なんかしたことのない俺がレベル1でこれかよ」

 剣術レベル5へは10Pか……次のレベルは剣術に極振りだな!

 なんだか希望がわいてきたよ!

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