【書籍試し読み増量版】ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた 1

桂かすが/MFブックス

プロローグ 就職活動をしていたと思ったら異世界にいた

 ラズグラドワールド――それは天界より見降ろせし諸神のための箱庭。

 故にそこは箱庭世界ラズグラドワールドと呼ばれていた。


  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 この世界、せっかくいい感じに仕上がってるのに、滅亡させるのもったいないなあ。また勇者でも作るか? でも勇者も適性あるやつ探すの結構面倒だしなあ。

 そうだ、今回は適当なやつに能力を与えて放り込んでみるか。

 どんな能力がいいかな。このゲームの設定なんかいいな。こんな感じ? なんか適当だな。うん、テストもそいつにやらせることにしよう。

 ハロワに求人を出してっと……

 お、もう誰か来たか。普段着? 履歴書もない? いいよ、近いから直接来てよ。

 これでよし。

 だめだったらまた考えよう。最悪、滅亡してもやり直せばいい……

 

  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 俺の名前は山野マサル、二三歳。ニートをやっている。

 俺は今、ハローワークで求人票を眺めている。家でごろごろしていたかったのだが、いい加減お金が底を尽きそうだったので就職口を探している。

 特に必死に探してるわけではない。探したけど仕事見つからなかったと言うと、親もそんなにうるさく言ってこないのだ。


 そこでハロワに行って見つけた求人がこれである。


『剣と魔法のファンタジー 箱庭世界ラズグラドワールドのテストプレイ。長期間、泊まり込みのできる方。月給二五万+歩合給』


 その場ですぐに面接が決まり、歩いていける場所だったのでそのまま向かった。普段着だし履歴書もないのだが、それでもいいからすぐ来て欲しいとのことだった。

 このあたりで怪しむべきであったが、いい仕事が見つかりそうだと俺はのんきに構えていた。

 給料が出たら、まずは欲しかったあれとあれを……などと妄想しているうちに面接会場に到着し、スーツ姿のダンディなおじさんに迎えられた。


「連絡のあった山野マサルさんですね? よくいらっしゃいました。わたしは担当の伊藤と申します」

「はい、山野です。このような格好ですいませんが、よろしくお願いします。それでテストプレイとありましたがどのようなことをするんでしょう」

「RPGとかはおやりになります?」

「はい、大好物です」

「それなら話は早い。今回新しいスキルシステムを導入することになりまして、そのテストをお願いしたいのです」

 話しながら歩き、応接間らしき場所に通される。

「ラズグラドワールドは魔物とそれを倒す冒険者がいる、極めて普通の剣と魔法のファンタジーな世界となってまして、あ、こちら必要事項の記入をお願いします」

 一枚の紙に住所や名前、アンケートみたいなもの、もう一枚は契約書かな? ペンをもらい順番に記入していく。

「テストは長期を予定しているのですが……」

「はい、わたくしフリーですので全然問題ありません」

「それはよかった。それが書けましたら、さっそくラズグラドワールドを体験してもらいましょうか」

「え、もう今日からいきなりですか?」

「ええ、できれば早いほうが。あ、書けました? はいはい、必要事項は全部埋まってますね。では場所を移動しましょうか」

 そうして俺はラズグラドワールドに降り立った。


「え? え?」

 周りは草原。

 今の今まで応接間にいたはずだ。

「ではチュートリアルを行いましょう」

 どこからか伊藤さんの声がする。姿は見えない。

「ちょ、ちょっと待ってください。ここはどこですか 」

「どこって、ラズグラドワールドですよ。とりあえずメニューを開いてもらえますか?」

 丁寧な口調だが、その言葉にはどこか威厳があり従ってしまう。

『メニュー』と考えると目の前にメニュー画面が開いた。名前にレベルに職業、スキルやアイテム欄が並ぶオーソドックスなものだ。職業はご丁寧にもニートとなっていた。

「アイテムを選択してください。ショートソードがありますね? それを選択して装備してみてください」

 言われるがままにショートソードを選択すると、手の中に剣が現れる。

「サービスで初期スキルに剣術レベル、肉体強化レベルを入れてあります」

 なるほど、スキル欄にはその二つがある。

「ではまっすぐ進んでください。野ウサギが出てくるので倒してみてください」

 言われるままに進むとサイズのでかいウサギが現れた。

 そして襲い掛かってきた!

「あー、落ち着いて落ち着いて。弱い動物ですから一撃で倒せますよ」

 ウサギの突進にあわせて剣を振るとそいつは血しぶきを上げて倒れた。

「ウサギのほうに手を向けて収納と考えてください」

 言われたとおりにするとウサギの死体が消えた。

「アイテム欄を見てください。ウサギの肉と毛皮が追加されてますね。では最初のクエストです。野ウサギを五匹倒してください。いま一匹倒したのであと四匹ですね」

 そうか、ゲームだよなこれ。

 ウサギがやけにリアルだったし踏みしめる土の感触とか風が本物としか思えないけど、引き篭もっているうちにとうとうVRMMOが開発されたのか……

(いえ、現実ですよこれ)

 伊藤さんの声が頭に直接響いた。

 ちょっとおおおおおおおお、なに人の心読んでんの! しかもテレパシーとか!!

「いいですか、ここは地球ではありません。異世界です。リアルです。死んだら死にます。戻る方法は私しか知りません。テストプレイの期間は二〇年です。二〇年を生き延びるか、特定イベントをクリアすることで日本に戻れます。ちなみに私はこの世界の管理官で、神様みたいなものと思っていただければ」

 伊藤さん改め、伊藤神とやり取りした結果、次のことがわかった。


 ●契約したからには最後までやってもらう。拒否権はない。

 ●クリア条件を満たしたら、元の世界の元の時間に元の年齢で戻してくれる。

 ●給料はこっちですごした時間だけ払う。こちらで活躍すればするだけボーナスも出る。

 ●この世界は放置しておけば二〇年以内に滅びるので町に引き篭もるのはオススメしない。

 ●あくまでスキルテストをしてもらうだけなので世界を救うとかは考えないで自由に過ごしてもらってかまわない。


 俺の異議はすべて却下された。契約書にサインしましたよね? その一点張りだ。

 伊藤神は声だけで姿も見えないし、それに本当に神だと言うなら俺ではどうしようもない。言われるとおりにやるしかないのか……

「ちくしょう、こうなったらやってやる! 二〇年なんとしても生き延びてやる 」

「実は結構わくわくしてるでしょう? あの求人は適性のある人のみ引っかかるようになってるんですよ。まあ慣れればこちらの生活も気に入ると思いますよ。ではチュートリアルの続きをやってしまいましょう。野ウサギをあと四匹です」


 一時間ほどかけて野ウサギを四匹倒し、俺はレベルアップした。レベルアップ時には小さな音がしてお知らせしてくれるようだ。本当にゲームみたいだな……

「おめでとうございます。クエストをクリアしたので初期装備品と2000ゴルドをプレゼントです。ではチュートリアルのラストです。スキルのところを選んでください」

 メニューのスキルを選ぶと別のウィンドウが開き、スキルリストが大量に表示された。

「スキルポイントを自由に割り振って好きなスキルを取得してください。あとスキル振りを失敗したときのためにスキルリセットを用意したので何度でもやり直し可能です」


【スキルリセット】

 毎月一回だけスキルをリセットしてポイントに戻すことができる。


「スキルを色々テストしてもらわないといけませんからね。じゃあ何か選んでみましょうか。生活魔法なんかがオススメですよ」


【生活魔法】

必要1P 生活に便利な魔法セット。着火、水供給、浄化魔法、ライト。


「こちらにはトイレットペーパーがありません。技術レベルは中世くらいですから」


【浄化魔法】

 体や物の汚れを落とす。

 

 トイレ用か……

「剣に血糊がついてますね。浄化魔法を使ってみてください」

 どうやら魔法は考えるだけで発動するようだ。楽でいいな。剣についた血糊があっという間に消えてなくなった。

「以上でチュートリアルは終了です。町はこの先すぐのところにありますので、まずは町に行って冒険者ギルドに入るといいですよ。では健闘を祈ります」

 そう言い残すと伊藤神の気配が消えたのがわかった。


「就職活動をしていたと思ったら異世界にいた。何を言ってるのかわからないと思うが俺にもよくわからない……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る