第四話 野ウサギと死闘を繰り広げた男

 気がつくと知らない天井だった。うん、定番だからね。言っとかないと。

「お、坊主、気がついたか」

「はg……ドレウィンさん」

「おい、いま禿って言いかけなかったか?」

「いえ、そんなこと思ってもいませんよ」

「有罪」

 魔眼持ちの少女は容赦なく判定する。

「いいか、おれは少し後退してるが禿じゃない! わかったか?」

 指を突きつけられて脅されたので、ぶんぶんと首を縦に振る。

「微妙なお年頃。あまり頭のことには触れないほうがいい」

 いや、ティリカちゃん、あんたが言うな。

「それでどうしたんだ。町の近くで倒れてたところを見つけて運び込まれたって話だが」

 親切な人が倒れた俺を発見して冒険者ギルドまで運んで来てくれたらしい。

「魔獣が襲い掛かってきて、死闘の末、相打ちに……」

 うん、嘘は言ってない。ティリカちゃんも反応してない。

「魔獣ってこれか?」

 ドレウィンが焼け焦げた野ウサギを持ち上げてみせた。

「お前の近くに落ちてたから一緒に拾ってきてくれたんだよ」

「最初は調子よかったんだけど、戦ってるうちに体力が消耗してきて、それでもやつらは襲ってきて、俺も必死で戦ったんだけど町が見えたあたりで魔力が尽きて……」

「それで最後は野ウサギと相打ちか? どんな魔獣と戦ってたんだおめーは」    

 俺は答えない。野ウサギと戦って殺されかけましたなんて言えるか?

「ギルドカードを見せてみろ」

 ひょいとギルドカードを奪われた。

「ギルドカードには討伐した獣やモンスターを記録する機能があるんだ。説明されなかったか?」

 確かに聞いたような気がする。

 討伐依頼でも倒しさえすればカードに記録されるので、死体を持ち帰るなんて面倒なことはしなくてすむ便利な機能だ。

「ひのふの……野ウサギばかり二一匹か。一日でこの数はすげーが、まじか……野ウサギに殺されかけたとか冗談だろう?」

「やつらは恐ろしい敵だった……」

 まじで怖かった。もう死ぬかと思った。

「ほんとうか?」

 ドレウィンがティリカを振り返って尋ねた。

「嘘は言ってない」

「ぷっ。うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ひー」

 ドレウィンは大笑いしている。

 くそ、悔しくて涙が出てきた。

 ティリカちゃんはそれをぼーっと眺めている。数分後ようやく笑い終わったドレウィン。

「あー、こんなに笑わせてもらったのは久しぶりだぜ。がははははは。ああ、お前を拾ってきてくれたやつにはちゃんと礼を言っとけよ。あと三日後の初心者講習おめーは絶対来いよ。拒否は許さん」

 俺は大人しく肯くしかなかった。その日はそのまま宿に戻ってさめざめと泣いて寝た。


 翌日、ギルドに行くと野ウサギと死闘を繰り広げたあげく相打ちになった男として、すっかり有名になっていた。依頼の報告をしてすぐに宿に戻って布団をかぶって不貞寝した。

 ちなみに噂を広めたのは俺を拾ったやつらしい。ドレウィンとティリカちゃんは黙っててくれたみたいだ。命の恩人め……ありがとう、だが許すまじ。


  ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■


 後日、俺を拾った人にお礼を言いにいった。

「いや、だって冒険者を倒すほど強いモンスターが出たなら報告しないとダメでしょ? だから倒れてた君のギルドカードを見せてもらったんだけど。ほら、倒れてた状況とか説明しないといけないから全部しゃべっちゃったんだよね。それが広まっちゃったらしくて。正直すまんかった」

 

 倒れた原因は剣術レベル4だった。

 体力が人並み以下なのに一流剣士の動きをするからあっという間にスタミナが尽きたのだ。ポーションが効かなかったのは、連続で飲んだかららしい。最低でも三〇分は間隔をあけないとだめなのだそうだ。


 日誌はちゃんと書いたら返事が届いてた。

『予想外に面白かったのでボーナスあげます。伊藤』

 ボーナスは『魔力の指輪』というマジックアイテムだった。

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