第一話 異世界で、チートスキルを手に入れた。 (1)

 俺はいつのまにか、見知らぬ森に立っていた。

 木々の間から太陽の光が差す、温かい雰囲気の森だ。

 遠くからはチチチチッ、と鳥の声がする。

「どうなってるんだ、これ」

 状況がまったくつかめない。俺の乗っていた電車はどこに行ってしまったんだ。

 線路は街のどまんなかを通っていたはずなのに、なぜいきなり森にワープしているのか。

 最初に浮かんだ答えは「夢の中」というものだったが、風に揺れる葉っぱも、鼻をくすぐる緑の匂いも、あらゆるものがリアルすぎた。

「……まさか、本当に異世界なのか?」

 俺はにわかに信じがたい思いを抱きつつ、自分自身の姿を確認する。

 服装はスーツのままだったが、困ったことに、ポケットの中身はすべて消えていた。

 スマートフォン、財布、カギ、ハンカチ、ティッシュ──何ひとつ残っていない。

 服があるだけマシなのだろうが、どうにも心細い気持ちになってしまう。

 どこかに落ちていないだろうか?

 周囲を見回していると、いきなり、予想外のものが視界に浮かんだ。

 まるでRPGのようなステータスウィンドウだ。

 そこには俺の名前や年齢、性別、種族、レベル、HP、MP、スキルなどが書かれている。

 レベル1、HP50、MP1000。スキルは【転移者】【フルアシスト】【創造】【器用の極意】【たくみの神眼】【アイテムボックス】【解体】【鑑定】の合計八個だ。

 HPに対してMPが異様に高く、スキルもやたら数が多い。

 これがもしかして規格外の能力、というやつなのだろうか?

 色々と考えつつステータスウィンドウを眺めていると、MPの近くに新たなウィンドウが現れた。


 MP:コウ・コウサカの魔力量を数値化したもの。一般的な魔術師の魔力量を100としたときの相対値である。一秒につき最大値の一%が回復する


 MPのすぐ隣、スキル一覧の【転移者】に視線を向ければ、また別のウィンドウが現れた。


 【転移者】(ランク99) 異世界からの転移者が持つ特殊なスキル。身体能力、精神力、直感力、成長性を大きく向上させるほか、この世界の言語知識が付与される。出身世界の難易度によりランクが決定され、数値が高いほど補正が大きくなる。最大値は99


 MPと【転移者】の説明文を、俺は何度も何度も読み返す。

 魔力量、魔術師、異世界、転移者、出身世界──。

 それらのフレーズから推測するに、どうやら俺は本当に異世界に来てしまったらしい。

「異世界転移なんて空想上のフィクションじゃなかったのか?」

 まあ、うれしくないと言えばウソになるし、不安よりも期待や高揚感のほうがずっと大きい。

 俺は久しぶりに心が踊るような感覚を覚えつつ、他のスキルについても説明を読んでいく。

 【フルアシスト】は俺の異世界生活をさまざまな面から補助してくれるスキルだ。

 ステータスなどがウィンドウに表示されているのも【フルアシスト】のおかげであり、俺が理解しやすいようにRPGっぽい形式を取っているらしい。また、この世界の言語を自動的に日本語に翻訳してくれるようだ。

 【創造】【器用の極意】【匠の神眼】【アイテムボックス】【解体】【鑑定】──すべての説明に目を通したところで、さらに別のウィンドウが現れた。


 【フルアシスト】を起動し、スキルの高速インストールを行いますか?

 これによってスキルを自由に扱うことが可能になります


 答えはもちろん「はい」だ。

 俺がうなずくと、ウィンドウはパッと消えてしまう。

 数秒後、頭の奥に何かが流れ込むような感覚があった。

 それは一瞬の出来事だったが、気が付くと、俺はそれぞれのスキルの特徴や使用法などを自然と理解していた。たとえるなら、脳内に新たなアプリが追加されたような感覚だろうか。


 インストール完了です。お疲れさまでした


 どうやら無事にインストールは終わったらしい。

 さて、スキルが使えるようになったわけだし、ひとつ実験といこう。

「まずは……【アイテムボックス】かな」

 これは物品を亜空間に収納するスキルで、亜空間の大きさはスキルランクに依存する。

 俺の場合はランクEXとなっており、容量は無制限だ。

 モノを収納するには、対象に触れる必要があるらしい。

「とりあえず、そこの木で試してみるか」

 俺はすぐ近くの樹木に手を伸ばし、収納と念じる。

 直後、足元に半径一メートルほどの光の輪が現れた。

 輪の内部には円と三角形を組み合わせたような図形……魔法陣みたいな模様が描かれている。

 それが黄金色の輝きを放った。

 次の瞬間、俺が触れていた樹木は光に包まれ──魔法陣の中へと吸い込まれた。

 ここまで一秒ほどの出来事だった。

 魔法陣が消え、それと入れ替わるように新たなウィンドウが現れる。

 ウィンドウには【アイテムボックス】の中身がリスト化されており、一番上には『ヒキノの木×一』と書かれている。いま収納した樹木のことだろう。

 ヒノキじゃなくてヒキノ、微妙に紛らわしい。

 それはともかくとして別のスキルも試してみよう。

 次は【解体】だ。これは魔物の死骸などを素材や食料として利用できるよう解体するスキルで、どうやらヒキノの木に対しても発動できるらしい。使ってみるとヒキノの木は『ヒキノ材』五個に変化した。

 さて、個人的にはこのあとのスキルが本番だったりする。

 ──【創造】。

 どんな効果かといえば、説明文はこうなっている。


 【創造】(ランク1) 創造神の力がスキルとしてコウ・コウサカに宿ったもの。生産系の最上位スキル。素材を消費し、新たなアイテムを生み出す。なお【創造】されたアイテムには特殊な効果が付与され、通常よりはるかに高い性能を持つ。スキルランクが高くなるほど幅広いアイテムが作成可能


 創造神の力というフレーズにはちゅうごころを刺激されるし、ものすごいアイテムが生まれてきそうな気配が漂っている。今から楽しみだ。

 さて、先ほど【アイテムボックス】に収納した『ヒキノの木』だが、どうやら【創造】の素材に使えるらしい。新たなウィンドウに【創造】のレシピが表示されていた。


 ヒキノ材×一 → ヒキノの棒×五


 ひのきのぼう……じゃなかった、ヒキノの棒か。

 なんだか微妙に見覚えのあるフレーズだが、とにかく作ってみよう。

「【創造】!」

 わざわざ声を出す必要はないのだが、つい気合を込めて叫んでいた。

 あまり自覚はないが、テンションが高くなっているのかもしれない。

 【アイテムボックス】を確認するとヒキノ材は消え、代わりに『ヒキノの棒』五本が追加されていた。


 ヒキノの棒:ヒキノ材を削って棒状にしたもの。ヒキノの木は頑丈かつ燃えにくいが、付与効果によってその特徴がさらに高められている。

 付与効果:《耐久性A》《不燃S+》


 なんだか建築材として優秀そうなアイテムができてしまった。

 そんなことを考えていると、また別のメッセージウィンドウが現れた。


 スキル経験値取得により、【創造】がランク2になりました。レシピが増加します


 おっと、どうやらスキルランクが上がったらしい。

 ちょっと簡単すぎる気もするが、レシピが増えたのは素直に嬉しい。

 それにしても──

 さっきから色々なウィンドウが開いたり閉じたりしているが、さすがに視界の邪魔になってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る