【書籍試し読み増量版】異世界で手に入れた生産スキルは最強だったようです。 ~創造&器用のWチートで無双する~ 1

遠野九重/MFブックス

プロローグ 帰り道、異世界へ飛ばされた。

 小さいころ、将来の夢は消防士だった。

 きっかけは単純なもので、テレビで消防士を取り上げたドキュメンタリーを観たこと。

 火事の建物から人々を救出する姿を、かっこいい、と思った。


 とはいえ、それは現実を知らない子供の憧れだ。

 大人になるにつれ、キラキラした仕事の裏側も知り、自分の適性を考えた結果、夢とは別の仕事に就く人も珍しくない。というか、それが普通だろう。

 俺……こうさかコウもそういう普通の人のひとりだった。

 二十九歳の今、どこにでもいるようなサラリーマンになっていた。

 勤め先はIT関係の企業だが、やたらと炎上案件が多い。システムの設計が大幅に遅れているとか、プロジェクトの責任者が失踪したとか、顧客側の担当者とトラブルを起こしたとか。

 社内には炎上案件専門の火消しレスキュー部隊があり、俺はそこに所属していた。

 いわゆる、火消し職人というやつだ。

 炎上案件をどうにかこうにか解決したときの達成感は大きいし、周囲から感謝されたり賞賛されたりするのは悪い気分じゃない。

 だが同時に、トラブルに対していつも後手に回っている現状をもどかしく感じていた。

 レスキュー班が投入されるのはプロジェクトが炎上してからだが、ボヤの段階で先手が打てれば、被害はもっと少なくできるはずだ。

 けれど、世の中というのはうまくいかない。ひとつの炎上案件をつぶしているあいだに、また別の炎上案件が生まれてくる。結果、嫌でも後手に回ってしまう。

 うちの会社、炎上案件が多すぎないか?

 そのうち大爆発を起こして、会社ごと吹き飛ぶぞ。

「いっそ本当に吹き飛んだほうがいいんじゃないか……?」

 おっと。うっかり口に出してしまった。

 ここは残業帰りの終電の中、慌てて周囲を見回したが、同じ車両には誰も乗っていなかった。

 よかった。うっかり他人に聞かれて、頭のおかしいヤツと思われたら嫌だしな。

「俺、疲れてるのかな」

 就職してからというもの、家と会社を往復するだけの毎日が続いている。

 給料が高ければまだマシなのだろうが、あいにくウチはブラック企業だ。

 ひたすら薄給のまま使い潰されるばかり。

 趣味はゲームだったが、あまりに忙しすぎて最近じゃスマホのアプリゲームすらも遊べていない。

 そうこうするうちに流行から取り残され、新作のチェックも面倒になっていた。

「昔だったらなぁ……」

 昔はアプリストアやニュースサイトを巡回し、面白いゲームはないだろうかと探し回っていたが、今はそんな気力も湧いてこない。

 原因は仕事の忙しさと……年齢だろうか。

 俺も来年には三十歳、すっかりおっさんになってしまった。

 徹夜でゲームに没頭していた学生時代が懐かしい。あのころに戻れるなら、戻りたい。

 ──そんなことを考えながら終電に揺られるうち、俺は深い眠りに落ちていた。


    〓


「……ここは?」

 気が付くと、俺は暗闇の中に浮かんでいた。

 さっきまで電車に乗っていたはずなのに、いったい何が起こったんだろう?

 首をかしげていると、いきなり目の前に半透明のパネルが現れた。

 ゲームに出てくるメッセージウィンドウみたいなもので、そこには文章が表示されていた。


 あなたはこれより異世界に召喚されます。以下の選択肢から、希望する役割を選んでください。

  一、勇者:大いなる宿命を背負った戦士

  二、魔王:己が欲望のまますべてを塗り潰す暗黒の統治者

  三、賢者:常識外れの魔力ですべてを圧倒する魔法使い


 妙な質問だなと思いつつ、俺はそれぞれの選択肢について検討する。

 勇者? 大いなる宿命なんて果たせる気がしない。そんな厄介なものはノーセンキューだ。

 魔王? 王様とか面倒くさそうだし、たぶん勇者に倒されるだけだ。どう見ても死亡フラグ。

 賢者? いや、そもそも俺は賢くない。賢かったらブラック企業に就職しなかった。

 結論、どの選択肢もなりたいとは思えない。

「どれも選ばない、ってのはアリなのか?」

 俺がそうつぶやくと、メッセージウィンドウが消え……また、新たなウィンドウが現れた。


 隠し選択肢『四、どれも選ばない』が選ばれました。

 おめでとうございます! 隠し選択肢を見つけたあなたには、規格外の能力が与えられます!


 ……は?

 隠し選択肢? 規格外の能力?

 予想外の展開に戸惑っていると、さらに次のメッセージが現れる。


 それでは異世界への転移を開始します。貴方あなたに神々と精霊の祝福があらんことを


 同時に、まわりの風景に大きな変化が起こった。

 暗闇がサッと晴れたかと思うと、そこは森になっていた。

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