第一章 二度目の世界に嗤う (5)
ご機嫌ハナマル状態で手紙を書き終わる頃には部屋の中には俺以外に動いてる人間はいなくなった。
痛みに呻いて暴れるので王女の手足は砕いてある。それでも絶え間なく襲う激痛に耐えかねたようで、少し前から意識を失っていた。
相変わらず騎士たちは随分と痛みに呻いていたが、そのうち痛みに耐えかねて自分から意識を手放そうとする人間が増えた。
そのせいか、どいつもこいつも死んだ魚の目で頭が飛んじゃったか、気を失っているかで、呻き声の大合唱は止まってしまった。
「っ、おろろ、この感覚も久しぶりだな」
作業を終えて立ち上がるとくらりと視界が揺れる感覚がした。MPが急激に減っている証拠だ。
【火蜘蛛の脚剣】で字を書きながら、アレシアが死んでしまわないように【翠緑の晶剣】でHPを回復していたせいだろう。【火蜘蛛の脚剣】はほとんどMPを消費しないが、【翠緑の晶剣】の治癒はそこそこMPを消費する。
「ステータスオープン」
確認してみれば、MPが残り二割を切っている。やはり、現状のステータスでは心剣を乱用するのは厳しいようだった。
回復や消費軽減系のスキルをもう一度手に入れて鍛え直さなければ以前のようには戦えないだろう。やはり、レベル上げなどは早めにやっておくべきか。
「まぁいいや。さてと、そろそろ行くか」
とりあえずここでやることは終わったので城を抜け出して街に行き、いくつか準備をしてこの街を出ることにしよう。
「……無駄です、
「ん、意識が戻ったのか」
「城の中には五百人以上の騎士たちが常駐しています。貴方は拷問の末に殺されるでしょう」
強引にダメージと回復を同時に強制されて、一時的に体の感覚が
そのせいか、その瞳にはこちらを馬鹿にするような強さがあり、敵意が戻ったのが分かった。
あれだけ痛めつけてもそんな意志を持てるのはさすがは王女といったところだろうか。未だ混乱しているのもあり、半分は虚勢なのだろうが、時間を置けば本当に回復してまだまだ楽しませてくれるだろう。俺としては大変ご機嫌だ。
俺がそんなことを考えて黙っているのを見て、優位に立ったと思ったのか、アレシア王女が更に声を張り上げる。
「異世界の野蛮な民が思い上がるからそうなるのです。えぇ、楽には殺しません、私が受けた屈辱の何倍もの痛みと苦しみの中で殺してやりましょう」
ギラギラと憎しみという名の熱が込もった視線。
そう、これが欲しかったのだ。それはヤられたという自己認識があって初めてできる視線だからだ。苦痛と嫌悪と屈辱の汚泥の底へ突き落とすことができたと認識させてくれる視線だからだ。けれど………、
「まぁ、泣いて
ハッ、と鼻を鳴らし、本当に優位に立ったと確信したように見下しているというのが丸分かりな言葉と視線を送ってきた。
そんな王女を見て、俺は、
「はぁああ~~~~~~………」
心底、がっかりとして深い深い、とんでもなく深いため息をついた。
こんなのに
扱いやすいヒロインをチョロインさんということがあるが、この王女様に簡単に騙されてた昔の俺はそれこそ超チョロインさんだったようだ。
そしてもう一つ、やはりこの程度の苦痛では復讐の満足度が全然足りないのがはっきりした。まだまだ「俺を利用する」なんて考えが出てくるのに、殺して終わりにしてしまうのでは満たされない。それではダメなのだ。
利用するなんて考えない、ただ、俺を
復讐する相手は多く、満足する復讐を遂げるには一人一人にとても時間と手間が掛かることだろう。
(まぁ、その方がいいか。それだけ長く、この復讐を楽しむことができる!!)
その時のことを想像して、口の端が思わず
「な、なんなのですっ、その反応はっ!! 騎士がいるのが噓だと思うのなら……」
「別に噓だと思っちゃいないよ。これだけ騒いでほかの騎士がやってこないのは、勇者召喚の秘密が万が一にも
「どうしてそれをっ!?」
「前に一度聞いたからな」
目を驚きに見開いた王女の間抜け面を見ながら、一度目の召喚時に聞いた話を思い出す。
「んじゃ、俺、行くから」
スタスタと歩き、召喚の間の柱に備え付けられた
すると、召喚の間の端の方の石畳の一つがゴゴゴッと音を立てて開き、そこから地下通路に続く階段が現れた。
「そ、その隠し通路は直系の王族以外の人間は誰も知らないはずなのにっ、なぜっ!?」
「だから、前に聞いた、いや、通ったからだよ」
そう、アレシア王女に騙され、
「っと、危ない危ない、忘れるところだった」
少し復讐の前哨戦のようなことができて満足していたせいか、やらなければならないことを忘れるところだった。
スタスタと歩いて、まずは近くで転がって呻くだけのオブジェと化している騎士の近くによる。
「最初は素手で潰すつもりだったんだけど、せっかく素晴らしい喉の潰し方教えてもらったんだからやらないわけにはいかないよな? ちょっちMPが心もとないけど、まぁ【火蜘蛛の脚剣】だけなら、なんとかなるだろ」
そう言って、脚剣の先にピンポン玉ぐらいの大きさの火の玉を作り出すと、騎士の口の中に放り込んで破裂させた。
「¢£%#&□△◆■!?」
威力を極限まで絞ってあるので死ぬことはないが、口内と喉を火で直接焼かれた騎士から言葉にならない悲鳴が上がる。
「ほい、ほいっ、っと」
続けてほかの騎士たちにも同じように処理してやると、騎士たちは呻くことすらもできなくなってしまった。
「最後はお前だな、アレシア。しばらくはまた会えなくなるだろうから、言いたいことがあるなら最後に聞いておくぞ?」
「…………、お前の名を、教えなさい」
「いやいや、これから潜伏しようとしてるのに教えるわけないだろ。だから、お手紙にも書いた通り、俺のことは」
ボッ、と作り出した火の玉を王女の口の中に放り込んだ。
「二度目の復讐者とでも呼んでくれ」
「~~~~っ!!」
意地でも弱みは見せないとばかりに、アレシア王女は荒れ狂う激痛に声も出さずに耐えた。
指は全部使えなくした。喉もしばらくは治らないだろうし、十分な時間を稼げるはずだ。
「あ、それからこれはもらってくな。軍資金代わりにするわ」
王女が首から下げていたネックレスを取り上げる。たしか、王室ゆかりのえらい品だと言っていたから、これを金に換えれば当分は困らないだろう。
アレシア王女は
最後にニッコリと笑顔を浮かべると、心地のいい視線を背に地下通路をひとり降りていった。
俺は薄暗い地下通路を歩きながら、冷えてきた頭で少し前のことを思い出していた。
ウズウズとする感覚は、古傷が抉られたせいなのだろう。
思わずため息をついて、言葉がこぼれ落ちた。
「もっと、よく考えて名乗ればよかった……。ぐぅおおおおっ、なんだよ、『二度目の復讐者』ってっ!! もっとほかになんかなかったのか俺っ!!」
そう、中二病という名の古傷を自ら抉ってしまったようで、出口にたどり着くまでの間、ひたすら
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