第二話 地獄の始まり!! の巻 (2)


    ***


 私とカズキ君、そしてウサト君がこの世界に召喚されてから約三週間が過ぎた。

 ずっと訓練漬けだったせいか、私もそれなりには闘えるようになったが……実戦でまともに闘えるかはまだ分からない。

 今は、午前の訓練が終わり、訓練場の一角の木陰で昼食をとっている。

「カズキ君も随分強くなった」

「先輩にはかなわないですよ」

 カズキ君も、猛スピードで成長していた。

 私も、リングル王国最強の騎士シグルスや、優秀な魔法使いであるウェルシーと引き分けにできるほどに強くなった。かなり手加減してくれているのは分かっているが、私達の成長にかなり驚いているのは理解できた。

 でも、私の中ではまだ足りない。

 この国の魔法にはロマンが足りないのだ。ちょっと強い電撃を飛ばしただけで拍手喝采の嵐。カズキ君だったら顔を真っ赤にして照れるだろうが、私は違う。

 さらに広範囲にドカンとくる技とか、雷パンチとか、もっと変態的な技をやりたい……っ。

「自分で作るしかないか」

「どうしたのですか?」

 おっといけない、思考が漏れてしまったようだな。

 私に声を掛けてきた金髪へきがんの少女はロイド王の娘、セリア・ブルーガスト・リングル。

 彼女のような人物がなぜここにいるかというと、時はウサト君がローズに連れ去られた後にまで遡る。

 ロイド王は、ウサト君を連れ戻すのは困難と判断した。

 そして、私とカズキ君に教育係として、軍団長であるシグルス、すごうでと評される魔法使いであるウェルシーの二人をあてた。その際に一緒に呼び寄せた娘のセリアに、彼女と同年代である私達を紹介したことが始まりだった。

「……」

 昼食を食べ終えたカズキ君は、城から外の風景を眺めている。

 ふむ、なんか物憂げな表情からして、ウサト君の心配でもしているのかな?

「……ウサト、今どうしてるかなぁ」

 分かりやすいな君は。

 前にウサト君に会った時、彼はひどくやつれていた。

 異世界の生活は彼にとってそれほどまないものだったのか、それとも救命団の訓練がそれほどまでに過酷だったか……。

「ウサト様とはどのようなお人なのですか?」

 ウサト君に興味を持ったセリアが、彼について訊いてくる。

 私が答えようとすると、先にカズキ君が胸を張りながら、彼について話しだす。

「ん? ああ、この世界に一緒に来た友達だよ。まあ友達になったのは召喚される少し前だけどね」

「あの喜びようからすると、カズキ君に男友達がいないことは本当だったらしいね」

「ち、ちがっ!!」

 友達くらいいます、と自信なさげにつぶやいたカズキ君をクスクスと笑うセリア。

 まあ、私は知っているのだけどね。周囲の男子から距離を置かれていたカズキ君の学校風景を考えれば、ウサト君はたとえ短い付き合いでも大事な友達なのだろう。

「そのお方はどちらに?」

「救命団ってところかな? 確か……」

「きゅ、救命団ですか!?」

「そうですよね、先輩」

「そうだね」

 私は前に会ったウサト君の様子に疑問を持っていた。私は元の世界で様々なスポーツをたしなんでいたので、体の構造……特に筋肉の構造についてはある程度の知識がある。

 ウサト君の両脚は見間違うほどに発達していた。それに合わせるように上半身の筋肉も鍛えられていた。まだ訓練を始めてから一週間も経っていないにもかかわらず。

 触らせてくれさえすればもっと色々分かったのに、いけずだなウサト君は。

 しかし短期間での急激なトレーニングは体に悪い。そのような面を考えれば──。

「心配だな……」

「先輩?」

「いや、なんでもないよ。セリア、さっき救命団と聞いて驚いていたけど、そこで何かあったのかな?」

「いえ、あの……最近、救命団に関するおかしなうわさが城に広まっていまして……」

「噂?」

 その噂について彼女は何かを知っているようだ。その証拠に、ウサト君の話を聞いてから一向に私達に目を合わせない。

 もしかしてウサト君になんかよくないことがあったというのか?

 彼女は口ごもりながら、ぼそぼそと言葉を紡ぐ。

「あくまで噂ですよ? 救命団に入った新人が、救命団の団員でさえも音を上げる訓練を黙々とこなしているという噂です。そのことを衛兵の方が話しているのを小耳に挟みましたが……」

「……なんだか本当に心配になってきた。今日の訓練はここで切り上げてウサト君の様子を見に行かないか?」

「あっ、私も行きます」

 顔の筋肉が硬直するのを感じながら、二人にそう告げると、カズキ君も同じく顔を引きつらせながらうなずくのだった。


 午後の訓練を休んだカズキ君と私は、セリアと共にウサト君のいる救命団の宿舎へと向かっていた。さすがにお姫様を城の外に出すのは危険ということで、護衛としてシグルスもついてきた。

 救命団の宿舎がある場所は、木々が生い茂っており、人の姿はなかった。

 先日来たときには、宿舎の前にウサト君がいたはずだが……。

「ここにウサト様が?」

「そのはずだけど……いないな」

「今は午後の訓練中じゃないか?」

「じゃあ、探してみるか。邪魔になりそうだったら帰ればいいだけだし。シグルスさん、案内お願いできますか?」

「分かりました。ではついてきてください」

 様子を見るだけなので、長居するつもりはない。シグルスを先頭に救命団の訓練場へ、生い茂る木々の間を通り歩いていく。

 いつも城の景色ばかり見ているセリアにとって外の景色は新鮮なのか、目を輝かせきょろきょろと周りを見ながらカズキに話しかけている。

「ふあ……すごいですねカズキ様」

「セリア様、あまり私から離れませんように……」

「シグルスは過保護すぎです!」

 彼女は一国の姫なのだ。シグルスが過保護になるのも無理はないだろう。

 困ったような表情をしながら先導しているシグルスに、カズキ君が申し訳なさそうに謝る。

「すいません、シグルスさん」

「いえ、気にしなくていいのです。私もローズに用があるので……この先に訓練場があります。恐らくその場所にウサト様がおられます」

「そうですか!」

 シグルスが指差した方向を見据える。

 前に会ってからの間に彼はどのような成長を遂げているのか。そんな思いを抱きつつ林を抜けると、直径三〇メートルほどの広場に出る。

 その広場の中心には、腕立て伏せをしているウサト君──だが、隣で見ているカズキ君からは喜びの声は出なかった。それは私も同様である。

「「……」」

「どうしたのですか? 一体、何が起こって──!?」

「フッ! フッ! フッ! フッ! フッ!」

「おい、ペースが落ちてるぞ。芋虫かテメェは? 重り増やしたくらいで音を上げてんじゃねえぞ」

「誰がッ音を上げたってッ言ったよッ!!」

「無駄口たたいてんじゃねえよ」

 腕立て伏せをするウサト君。

 そして、その背には大きなブロック状の大岩。

 見積もりで五〇キロほどか。それがウサト君の背に載せられている。

 さらに、その岩に尊大に座る救命団団長ローズの姿。

「……チッ」

「何だァ、舌打ちが聞こえたんだけどなァ」

 今、ウサト君から舌打ちが聞こえた。

 あれは本当にウサト君なのか。

 召喚される前、私達と楽しく会話に花を咲かせていたあの優しげな少年はどこに行ってしまったのか。

「あまりにもローズさんが軽くてビックリしたんですよ……。思わず舌打ちしちゃいました」

「ほほォうれしいことを言ってくれるじゃねえか。そんな余裕があんなら、もっと重り増やしても問題ねえよな」

 地面に下りたローズは、近くに置いてあるブロック状の大岩を軽々と持ち上げウサト君の背の大岩に重ねるように載せる。

 ズンッ、と擬音が付きそうな勢いで腕を震わせ体が沈むウサト君だが、ギギギと歯をみ締め負けじと腕立て伏せを続ける。

 その様子に満面の笑みを浮かべるローズ。

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