第一話 巻き込まれて異世界! の巻 (2)


    ***


 結局、カズキは王様の頼みを引き受けることにした。

 最初は断るつもりだったようだが、魔王によって引き起こされた惨状を聞かされると、渋々ながらも頼みを受けてしまった。

 カズキの判断に、犬上先輩は特に反論はしなかった。いや、反論する気などなかったと僕は感じている。

 理由は分からない、全く見当もつかないな……。

 僕は、カズキの判断に任せるとだけ言っておいた。この状況を少なからず楽しんでいる、というのもあるけど、僕はあくまで巻き込まれた二人のおまけだ。

「ではカズキ様、スズネ様、ウサト様。この水晶で貴方あなた達の適性を計りたいと思います」

 場所は変わり、大広間から古びた雰囲気の部屋へ移動した僕達。

 この部屋に案内してくれた王国お抱えの女魔法使い、ウェルシーさんの話によると、部屋の中央に鎮座している水晶に触れることによって、適性……つまり使える魔法が分かるという。

 使える魔法の種類は多岐にわたるらしいが、オーソドックスなものとしては、「火」「水」「雷」といったものらしい。

 転移系とか幻術系、他にも色々あるらしいが、中には特定の種族にしか出ないものもある、とのことだ。

 あまり現実感がわかない。

 でも、僕にも魔法が使えるのなら、カズキ達の力になれるようなものがいい。

 無理を言って僕の適性も調べてもらうように頼んでみたら、すんなりと許可をもらえたのだけど、いざ機会が訪れるとすごく緊張する。

「ではカズキ様から触ってみてください」

 一体僕はどんな能力になるんだろうな、そんな思いを抱きながら順番が来るのを待っていると、ウェルシーさんの興奮気味な声が聞こえる。見れば、カズキが手を置いている水晶が白く輝いているではないか。

 それを見て「さすが勇者ですね!」とウェルシーさんが喜んでいる。

 その勇者という単語を何度も言われると、ピンポイントで僕のれたティッシュ並みのメンタルが破れそうになる。

 ん? カズキはうれしくなさそうだ。

「どうしたのカズキ?」

「だってよ、光って何だ? 闘ってるとき、ぴかーって光って敵の目をくらますのか? どう使っていいか分からないぞ……」

「ビームを出せばいいのだよカズキ君。それか光で断ち切る剣を──」

「先輩、そういうネタ的なものは駄目だと思いますよ」

 この人やべえ。

 異世界来てからおかしくなったぞ。

「なかなかしんらつだねウサト君は。そういうの……嫌いじゃないぞ?」

 もうこの人嫌だ。

 誰だ、学校一の美人って言ったの……あっ、僕か。

「いえいえいえいえッ!! すごいですよ光の魔法は! なにせ扱える者が限りなく少ない魔法なんです! 光をもって邪を払う、対魔戦闘では無類の力を誇る最高位の力を持つ属性です!」

「そ、そうなんだ……」

 カズキの魔法について力説するウェルシーさんに、やや引き気味のカズキ。そんな彼を見かねた先輩が、ウェルシーさんに話しかける。

「ウェルシーさん。次は私の魔法がどんなものか調べてみてくれないか?」

「あ、はい。分かりましたっ。ささっ、カズキ様と同様にこの水晶に触れてください!」

 ウェルシーさんに促され、犬上先輩が水晶に手を置く。

 すると水晶の透き通った色が徐々に曇り、次第に煌めくような黄色へと変化した。

「スズネ様は黄色……雷系の魔法の適性がありますね。魔力量もカズキ様に引けをとりません!!」

「雷……くふふ」

 犬上先輩が嬉しそうで何よりです。

 それにしても雷かぁ。男の子なら一度は憧れる属性だ。

 さーて、次は僕の番だ。僕は一体どんな魔法を使えるのかな? ちょっとワクワクしながら水晶に近づく。

「では、ウサト様。手を……」

「はい」

 恐る恐る水晶に手を当て見つめる。

 数秒ほど触れていると、水晶はやや透明な緑へと変わった。透明度は二人よりある感じだけど、色が全然違う。なんというか、目に優しい色だ。

「っ!!」

「あの、ウェルシーさん?」

 なんでそんなに顔を水晶に近づけて観察しているんですかね……。

れいな色だね。まるでエメラルドみたいだ」

「確かになあ。俺もなんか光っているだけで色なんて分からなかったし」

 犬上先輩とカズキが、僕の触った水晶を見て口々にそう言う。

 透明度は魔力量を表しており、色は属性を示すとウェルシーさんに聞かされていた。

 少し透明だから、割と上の方なのかな?

「植物とか操ったりして……ってどうしたんですか? そんな顔を青くさせて……」

「つ、伝えないと……」

「はい?」

 ウェルシーさん、なんで僕の手をつかむんですか?

「伝えないとォォォォォォォォ!!」

 僕の手を万力のような握力で掴み走り出すウェルシーさん。

 え、何? 何なの? 僕何か悪いことした?


 着いたのは王様のいる大広間。

 息も絶え絶えになった僕は荒い息を整えながら、ウェルシーさんに手を引かれ王様の前に出る。

 女性に手を握ってもらえたのは小学生以来だけど、なんか違う。こんな全力疾走で鬼気迫った感じじゃない。

「ロイド様!!」

「どうしたウェルシー、カズキ達の適性が分かったのか? おや、そこにいるのはウサトではないか? 他の者はどうしたのだ」

「カズキ様もスズネ様も素晴らしい素質を持っていました。しかし……」

「……何だ? ウサトは元々巻き込まれてこの世界に来たのだ。彼の意思を無視するようなことはさせんぞ」

 この王様、本当に良い人すぎです。

「違います!! 私もそのことは重々承知しております。しかし彼の適性が、その……」

「どうしたというのだ? まさか闇をつかさどる属性というわけじゃあるまいな? ハハハ!!」

 いきなり笑いだす王様とその周りの人々。

 それに対し、にこりともしないウェルシーさんのこわった表情が僕の不安感をあおる。

「治癒系……なのです」

「はは……は? 今なんと?」

「水晶が緑色に、つまり治癒魔法使いになれる素養を持っています」

 治癒、魔法?

 何その回復職みたいな魔法。

「「「……」」」

 なんで皆さん無言になるんですか? え、そんなまずい魔法なんですか!?

 僕の系統がそんなにもヤバイの!? 笑い飛ばせないくらいにヤバイの!?

 治癒って名前からして治すタイプの能力ですよね!? それでなんでこの場がお通夜みたいな空気になるんですか!?

 王様が僕の方を見てコホンとせきばらいする。

 喜びと困惑を混ぜ合わせたようなおかしな表情で、状況を説明してくれる。

「治癒系の魔法使いはなものでな。普通の魔法使いも応急処置程度の回復魔法は使えるのだか、それをはるかに上回る回復魔法を使えるのがこの系統の強みだ。実際、この国にも数人おる」

「それがなにか……?」

「いや、その、なんと言えばいいのだろうか……そ、そうだ、明日ウサトを城下町の診療所に派遣するのはどうだろうか!!」

 あまりにも分かりやすい話題の転換に、だんだん怖くなってきた。

 この人達は、僕に何を隠しているのだろうか?

『それがいいですぞ、ウサト殿!!』

『そうですぞ!』

 側近の人達も口々に同意する。

「いい話じゃないですか。受けるべきですよっ、ウサト様!」

 ウェルシーさん、さっきからずっと掴んだままの手がだんだん湿ってきているのですが……。

 皆の台詞から懇願に近い必死さを感じる。

「え? でもこの国にも僕と同じ治癒系統の魔法使いがいるって……」

「いや、あの二人はともかくあやつは駄目だ!! 色々と駄目!!」

 あやつって誰だ。王様が危険視するほどの人物?

 周りの人達もしきりに頷いていることから、よほどの人物なのは理解できる。

 とりあえず了承するために口を開こうとすると、大広間の扉から一人の衛兵が慌てた様子で入ってくる。

「ロイド様! ローズ様がやって来ました!!」

「なに!? 絶対に通すな! 今は特にだ!!」

「え!? し、しかしそれが……」

 はて、ローズとは誰なのだろうか。

 その名前を聞いて、周りの人が僕に「隠れろ! 今すぐ隠れろ!」と呼びかけてくる。

 隠れた方がいいの? でもウェルシーさんが僕の手を離さないのだけど……。

 ちょっと離してウェルシーさん……え? ごめん? なんで謝るんですか!? 目に涙を浮かべたウェルシーさんから離れようと四苦八苦していると、大広間の扉が勢いよく開けられる。

「ロイド様、勇者はもう来てるんですか?」

「あっ、マズイ……」

 来ちゃった、とばかりに口を押さえたウェルシーさんがそうつぶやいたと同時に、緑色の髪の美女が入ってくる。

 身なりは白衣のような厚手の服をまとって医者のようだが、右目をふさぐ傷に凶暴性を感じさせていた。

 ツカツカと玉座までやって来た女性は、汗をだらだらと流す王様に近づく。

「なんで私の顔を見て驚いているんですか? 何か知られたくないことでも?」

「そ、そんなことはないぞローズ。今日は休みをとったはずじゃないのかね?」

「ハハ、国のために私が休むことは……ん? お前誰だ?」

 ローズと呼ばれた女性がギロリとこちらを見る。

 うっ、何だこの人怖い……。皆は、この人に僕が治癒の適性があるって知られたくなかったのか。

「か、彼は勇者ではない! 不幸にも、こちらの不手際で巻き込んでしまった少年だ!」

 王様必死。

「そうですか……おうボウヤ、名前はなんていうんだ?」

「う、ウサト……です」

「ウサトか。私の名前はローズ。王国の救命団の団長を務めさせてもらっている。よろしくな」

 救命団? 僕の目にはこの人が命を救うようには見えない。むしろ命を狩る職業をしていそうに見えます。

 じわりと額に汗がにじむのを感じる。

「そ、そろそろいいだろうか? ウサトも疲れているだろうから休ませてやりたいのだが」

「それもそうですね。じゃあロイド様、他の勇者はどこにいるんですか?」

「ああ、それなら……」

「おいウサト! 大丈夫か!!」

「いきなり走り出してどうしたんだ、ウェルシーさん」

 後を追ってきたカズキと犬上先輩が入ってくる。

 王様は、カズキ達の方を見る。

「彼らがそうだ」

「ほお、いい面構えじゃないですか」

 僕からカズキと先輩へ興味が移ったことで、王様達が露骨にあんの表情を浮かべている。もちろん、僕も恐ろしい視線から逃れることができてひたすらに安堵している。

「大丈夫だよカズキ」

「……ふぅ、何だよぉ。お前の触った水晶が緑色になったのを見て、ウェルシーさんが血相変えて連れていったときは何事かと思ったぞ。でも良かった、何もなさそうで……」

 あっ、言っちゃった。

 やばい、そう頭をよぎった瞬間、再び鋭い視線が僕へ突き刺さる。

「緑……だと?」

 ローズさんがこっちを見て、ニヤァと口角を上げた。

 王様が顔面そうはくになる。もちろん僕もだ。かつてないほどの危機に陥っている。主犯は僕の近くにいる男、カズキ。

 悪気がないのは分かってる。でも、今は空気を読んでほしかった……。

 恐怖のせいで足を震わせる僕を見て、ローズさんはれるような、それでもって恐ろしさを感じさせる微笑を浮かべ、王様へと振り返る。

「ロイド様、ちょっとあの少年借りますね」

「ウェルシー!! ウサトを避難させるのだ!! 今や彼は我が国にとって大切な客人!! あそこに行かせてはならぬぅ!!」

「え、あそこって……」

 ウェルシーさんは、僕の前に出てつえを構える。

 ウェルシーさんに隠れて前が見えない僕は、横に動いて前を見るも、既にローズさんの姿はない。ウェルシーさんも「どっ、どこです!?」と戸惑っている。

 すると突然の浮遊感、誰かに抱きかかえられる。

 顔を上げると、いつの間にか隣にいたローズさんが、脇に抱えるように僕を持ち上げ……た? 体重六〇キロぐらいある僕を片手で、しかも軽々と持ち上げた!?

「ロイド様。この少年、私が一人前の治癒魔法使いに育て上げてみせましょう!!」

「待て! お願いだ待ってくれ!! お前が治癒魔法使いを求めるのは分かる……だが、彼は本当に巻き込まれただけなのだぁ──!!」

 椅子から立ち上がり、僕を抱えたローズさんを呼び止める王様。

 だが高笑いを上げているローズさんには届かない。僕はどうしたらいいのだろう。カズキと先輩もぼうぜんとしている。

 えっ? えっ何これ、拉致!?

 今さらながら改めて自分の状況を理解した僕には、猛獣のように笑みを浮かべるローズさんに、ひたすら視線を合わせないようにすることしかできなかった。

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