第一話 巻き込まれて異世界! の巻 (1)
まどろみの中、僕は床の冷たい感触を肌に感じ目が覚めた。
「ん……ここは……?」
周りを見ると、
目の前には、大きな椅子に腰掛けるヒゲ面の男性と……数人の老人達がいた。寝起きで頭が働かず状況が理解できないが、よく見ると目の前の玉座らしき場所に座っている男性は高級そうな装飾が施された西洋風の衣服を着ていて、頭には王冠が載せられている。それに後ろの老人達はRPGでよく見るお付きの人のような服を着ているではないか。
老人達から周りに目を向けると、灰色の
「おいっ、大丈夫かウサト」
「カズキ……一体ここはどこ?」
隣にいたカズキが、不安そうにこっちを見ていた。
良かった、はぐれてはいないみたいだ。カズキがいるなら先輩もいるかも。
カズキに質問しながら自分の周囲を見ると、既に目を覚ましていた
寝起きの先輩、サイコーッス……。
変態的な思考で現実逃避しつつも、カズキにこの状況について
「分からない。でも起きたら周りに変な格好した人がたくさんいて……」
「そっか……先輩は大丈夫ですか?」
「ああ、心配はいらないよ。どこも怪我はしていない」
僕達が目を覚ましたことに気付いたのか、王冠を
威厳のある眼力に、なんとなく
「全員、目が覚めたようだな」
とても偉そうな人に見えるが、一体僕達に何の用があるのだろうか。
ボーっとしながらも周りの状況をゆっくり理解しようとしていると、カズキが警戒しながら王冠を被った男性に顔を向ける。
「あんたらは誰だ」
「貴様! ロイド様に何と不敬な!!」
王様らしき人物の隣に
そんなお付きの人を手で制す王様らしき人。
「構わん。いきなりこのような場に呼び出されれば、そのような言葉も出てこよう。あまり目くじらを立てるなセルジオ」
「しっ、しかし……分かりました」
「すまないな。彼はどうにも頭が固くてな」
「は、はあ……」
「私の名前はロイド・ブルーガスト・リングル。このリングル王国の王だ」
リングル王国。聞いたことがない国だ。
別に全世界の国名を知っているわけじゃないけど。
「単刀直入に言おう。お主らは勇者として我がリングル王国に召喚された」
「勇者、だって?」
今、隣から小さい声で「キタッ」って声が聞こえたけど、僕は決して犬上先輩の声じゃないと信じたい。
先輩、これ以上クールビューティーなイメージを崩さないでください。
あとカズキがシリアスやってんだから、自重してくださいお願いします。
「そうだ。この世界の魔族の王、魔王が復活した。奴は軍を率いて、着々と勢力を広げている。二年前の戦いで、我らリングル王国の民も決死の覚悟で戦いに臨んだにもかかわらず魔王軍の強大な力に苦戦を強いられた」
「ま、魔王?」
「死闘の末になんとか撃退することに成功したが、次はどうなるか分からない……よって、私は最後の手段として、異世界から魔王に対抗できる素養のある者をこの世に呼び出す禁忌の術、勇者召喚を行うことを決断したのだ」
犬上先輩、隣でパタパタと自分の足を
先輩のイメージが崩れ始めてます。いや、もう崩れてます。
「素養?」
「勇者召喚の魔法陣には素養のあるものを選定し呼び出す術式が施されておる。呼び出される際に鐘の音が聞こえただろう?」
「あの音がそうだったのか……。それだとウサトは……」
カズキがこちらを見る。申し訳なさそうな視線だ。
素養のある者のみに聞こえる鐘の音。つまりそれが聞こえなかった僕は素養がないことになる。
「僕は、巻き込まれた?」
それしか考えられない。
……いや、全然気にしていないし? 僕だって取り柄ぐらいあるし。超負けず嫌いだしッ!!
僕の方を戸惑いの目で見る二人……はい、僕すごい場違いですね分かります。
間違って巻き込まれたという事実がバキバキと僕の心にヒビを入れてくる。胸を押さえ苦しんでいるこちらに気付いた王様は、深刻そうに目を
ヤバイ、役立たず扱いされて追い出される展開かもしれない。
なんで僕だけ難易度ルナティックなの……。
「お主は巻き込まれたのか……帰してやりたいところだが、現状では異世界召喚は一方通行、連れてくることはできるが返すことはできぬ……二人も同様だ」
あれ、この王様、実は良い人なのでは?
いや、勇者召喚とやらで勝手に
「いえ──」
「ふざけんじゃねえよ!!」
いえいえ、と僕が発し終わる前にカズキが怒りの声を上げる。
彼の怒声と同時に、兵士らしき人達の手が腰の剣へと伸びる。
ちょっ、ちょっと怒る気持ちも分かるけど、抑えよう!? 相手を刺激しちゃ駄目!!
「それじゃあ俺達はどうなるんだ!! 元の世界に家族だっているんだぞ!! 先輩にだって、ウサトにだって……」
「申し訳ないと思っている……だが、我らも必死なのだ」
拳を握り締め、前に一歩踏み出すカズキ。
友達になって間もないのに、なんていい奴なんだろうか。僕なんて、突拍子もなさすぎて真面目になりきれないのに……。
「落ち着いてくれカズキ。ここで暴れてもしょうがないだろう?」
「くっ……ウサトがそう言うなら」
カズキの中での僕の発言にはどんな力が宿っているのだろうか。
「勝手だと理解している。だが、私達は必ずお主らを帰す方法を見つけてみせる。それまでの間、力を貸してくれ……頼む」
その場で立ち上がり僕らの所まで降りてきた王様は、深々と頭を下げる。
その異様な光景の中で、冷静になったカズキは諦めたようにため息をついた。
「俺も……取り乱しすぎました、すみません。話を聞かせてください。まずはそれからです」
「……温情感謝する」
王様に頭を下げたカズキは、僕と犬上先輩の方を見ながら
犬上先輩は、学校では見たことがないほど
この人、この状況を一番楽しんでいると思うんだ。
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