四話 エレオノールの神術講座 (2)

 ファルマはエレンの講義を、熱心にメモを取って聞く。

 この世界の貴族には全員神術の適性があり、守護神がいる。

 守護神と神術の属性は生まれつき決まっていて、神殿の洗礼儀の際に守護神を鑑定される。洗礼儀で守護神を鑑定し祝福を受けると、体内に神脈というものが開き、神術が使えるようになる。神脈が開けば、神力が発揮できるというわけだ。神術はこの神力を媒介として行使するものだという。神力の多寡は生まれつき決まっており、鍛錬で神力は増えない。

 神術には火、水、風、土、無の属性がある。

 属性はさらに、対象を生成する正属性と、減少させる負属性に分けられる。

 稀に、守護神が鑑定できず神脈が開かなかったり適性のなかった貴族の子は、絶縁され平民に没落する。いわば神術本位の貴族制だ。

(貴族だといっても、なかなかシビアだな)

 ファルマは気を引き締める。

 ブリュノ、パッレ、ファルマの守護神はやくしんで、水・正属性の神術使いだ。

 この世界には、百を超える守護神がいるのだという。よくある太陽神、月神、地母神、風神、海神などにはじまり、医神、薬神、鍛冶などの職業神もいる。

 守護神が薬神であり、優れた神術使いである薬師は、大陸に何名もいない。

 それがブリュノが尊爵として重用されている理由だ。ちなみにエレンの守護神は水神である。

(守護神に神術、属性ときたか。うーん……)

 彼は拒絶反応を起こしかけていた。彼は現代日本を生きた薬学者。神も仏も悪魔も魔法も神術であろうが苦手なタチだ。だが、この世界で生きるために覚えないわけにもいかない。

「というわけよ。ここまでは、いいかしら?」

 エレンが顔を上げて確認をする。ファルマはメモを取ったノートを見返しながら頷いた。

「ありがとう、よく分かった。ところで無属性というのは何?」

「四属性では定義できない、規格外の属性よ。無属性は一応あるにはあるけど、神殿が把握している限りもう三百年も現れていないし、そもそもその属性の存在だって怪しくて」

 神殿でも廃止しようか議論されているのよ、とエレンは苦笑する。

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