ファーレーン編 第一話 (4)
☆
「意外と街まで距離あるなあ……」
「だよね」
翌日、二日間お世話になった野営地を片づけ、街を目指して移動を始める二人。
そう、二日間である。
なんと彼らは、屋根も
結局あの後、移動するには時間が微妙だと言う事になり、だったらガラス瓶作ってるところ見たいからもっとポーション作って、と言う春菜のわがままに応え、手頃なレベル2ポーション各種を気力が持つ限界まで作る羽目になったのだ。
まあ、道具類は
因みに、こんなラフな作り方でもレベル4から下のポーションぐらいは失敗しないのは、どうやらエクストラスキル『神酒製造』と『神薬製造』の恩恵らしいのだが、確証を得られないので黙っていた宏である。
「考えてみれば、バーサークベアがおるぐらいやから、街から結構離れてるんはしょうがないか」
「二人揃って、変なところに落とされたよね~」
「ほんまや」
とりあえず、
あたりは森というほど
地形や植生、生き物の分布から、ファーレーンの首都ウルスの近郊だろう、という予想までは二人の間で一致したものの、じゃあ、どっちに行けばいいのかというあたりで意見が食い違い、とりあえずバーサークベアがいたのと反対方向に行こう、という事で落ち着いたのだ。
何しろ、そっちに行けば本格的に森の中に入る羽目になる。
なお、ウルスはゲームのスタート地点で、βテストの頃から実装されていたゲーム最古の地域である。βテストでは、十分以上に広いファーレーン全域が実装されており、結局テスト中に全てを見る事はかなわなかったという話だ。
「あれ、街道じゃないかな?」
「それっぽいなあ。次はどっちに行くか、やけど……」
「看板とかもなさそうだよね……」
ある意味当然と言えば当然だが、このわき道がどこにつながっているか、などと言うのを記す看板はどこにもなかった。昔このあたりでよく草むしりをしていた覚えのある宏でも、その手の看板の見覚えはない。
もう五年近く前の記憶なのでうろ覚えだが、確かこのわき道は、付近に住む住民や冒険者が薬の材料を集めるためによく入る道であり、その先の森も似たような土地だったはずである。
「どっちやったかなあ……」
広い街道の真ん中付近まで出ると、とりあえず手掛かりになるようなものがないかを探す。
「藤堂さん、覚えてない?」
「全然。私、このあたりを歩いてたのってもう四年以上前だし」
「僕も似たようなもんやからなあ。ずっと辺境で引きこもりやっとったし。ウルス自体にはクエスト
「私は拠点がダールだったから、このあたりの土地勘はもう、全然なくなってる」
お互いにため息をつき合う。誰か人がいれば、どっちに行けばいいかぐらいは分かるのだが、悪い事に人通りが全くない。普通なら隊商などが行き来しているはずだが、どうやら丁度タイミング的に空白の時間帯だったらしい。
「よし。棒でも倒して……」
「それで真ん中に倒れたらどうするん?」
「その時は、どちらにしようかな、で」
「それやったら、最初からどちらにしようかな、で決めたらええんちゃう?」
宏の非常にもっともな突っ込みを受け、苦笑しながら一つ頷く。
そんな事をごちゃごちゃやっていると、ちょうど春菜がさした方向に、人影が見えた。
「藤堂さん、誰かおるみたいや」
「本当だ。ちょっと話を聞いてみよっか」
第一村人ならぬ第一異世界人発見、とばかりに、こちらに向かって歩いてくる人影に歩み寄っていく。もちろん、悪い人だった時のための警戒は怠らない。
「なんか様子がおかしいなあ」
「うん。すごく切羽詰まってる感じ」
「背負われとる人、えらい顔色悪いで」
「……声をかけてみる」
意を決して、春菜がその二人組に近付いていく。いざという時のために割り込めるよう、ナイフを抜く準備だけは怠らずに、春菜の後をついていく宏。初対面の相手の警戒心を解く、という観点では、宏より春菜の方がはるかに適任だという理由による役割分担だ。
「あの……」
「申しわけないが、今急いでいる」
「その人、どうしたんですか?」
「ポイズンウルフの爪にやられた。応急処置はしたが、毒が全身に回ったら終わりだ。そういうわけで申しわけないが……」
急ぐ足を止めずに早口で言いすて、二人が来た方に早足で進む。
「東君、ポイズンウルフの毒って、さっきの毒消しで……」
「消せるはずやで」
何ともご都合主義的な状況に釈然としないものを感じながら、それでも死人が出るよりましだろうと一本差し出す事にする。
「藤堂さんは、毒消し系の魔法は無理なん?」
「ポイズンウルフの系統に対応してるのは覚えてないんだ。あまり受ける機会ないし、あの系統の毒はほとんどの人が耐性持ってるから、そんなに一生懸命は覚えなかったし」
「あ~、そうやなあ」
毒や
毒や麻痺といっても原因が様々で、薬だと対応する毒消しか上級生産でのみ作れる万能薬を使う。魔法で治療する場合も同じく対応する異常が治療できる魔法か高位の治癒魔法を使う事となる。
中盤以降の毒一つ取っても五種類は入り混じってくる状態異常に対して、いちいち治療するより耐性を得て防ぐ方が早いという結論に達する人が多かったのだ。そのため、耐性の取り方が一般的になる前からヒーラーをやっている人を除き、肉体系の状態異常を回復させる魔法が充実しているプレイヤーは少ない。
宏などに至っては、面倒だから万能薬を持っていく、などというレベルだ。しかも、調合をいじった最上級の万能薬だと、六時間の間全ての状態異常を予防する、などという事も可能なものだから、余計に状態異常治療系の魔法は影が薄い。もちろん、一般のプレイヤーはそんなすさまじい万能薬が手に入る立場ではないので、高レベルダンジョンだとそれなりに重要にはなってくる。
「そういうわけやから、試しにこれ飲ましたって下さい」
「……本当に効くのか?」
「バーサークベアの胃袋で作った毒消しやから、遅行性の毒にはよう効きますよ」
半信半疑のまま、それでも目の前の二人が自分を担ごうとしている様子がなかったため、賭けに出る事にしたらしい男性。
背負っていたもう一人の男を下ろし、その口に慎重に瓶を近付ける。
辛うじて意識が残っていたらしい毒にやられた男が、コクコクと液体を飲み下すと、少しずつ呼吸が落ち着いてくる。
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