ファーレーン編 第一話 (2)
「エクストラスキルまであるんやったら、なおの事、こんなところでしこしこ鞄とかポーションとか作ってんと、何とか門番だまくらかして中に入って、広場で一曲歌ってもらった方が早かったかもしれへんなあ、と思って」
「でも、鞄とか持たずに歌でお金稼いでも、そんなに持ち運べないよね?」
「まあ、そらそうやわな」
「それに、ポーション作りも、心臓とかが腐るからもったいない、って観点だから、無駄にはならない、と思うけどどうかな?」
「そういえば、ポーションってそういう理由で作っとったな。なんか、牛おるからカル○ス作ろうとして、牛舎建てて牧場ちゅうところから始めるような作業手順やったもんで、すっかり忘れとったわ」
的確ながら、あまりにあまりな
「とりあえず、バイタリティポーション渡しとくわ。藤堂さん、感じからいうて力技は得意やなさそうやし」
「この手のポーションは使った事がないんだけど、どんな感じ?」
「ゲーム的には、十二時間ほど耐久値にボーナス補正が付くドリンクやな。味は保証できへんけど、少なくとも作るのに失敗はしてへんから効果はあるはずや」
「十二時間って、また長いね」
「フルに効果があるんは、飲んでからせいぜい三時間やけどな。徐々に効果が薄なっていって、六時間から九時間で申しわけ程度になって、十二時間で完全に切れるねん」
「なんかあのゲーム、薬の効き方なんてところまでこだわってるんだ……」
「無駄にこだわってんねん。まあ、飲み合わせの干渉まではなかったみたいやから、また今度マナポーションとかも作るわ」
春菜がどちらかといえば魔法系のスキルに偏っているだろうと判断し、そんな事を告げる。
「うん、お願い。でね、
「何?」
「そろそろ、お互いに手持ちのカードを全部見せ合わない?」
「手持ちのカード?」
「うん。どんなスキルをどのぐらいの熟練度で持ってたか、とか、今何レベルぐらいでグランドクエストをどのぐらい進めてたか、とかね」
春菜の提案に、少し視線を泳がせて考え込む。
「悪いんやけど、ステータス画面見んと正確な数字が分からへん」
「大体でいいよ。私だって、自分のステータスも細かいスキルも覚えてないし」
ここが現実の世界だと確信した理由の一つが、ゲームの能力を使えるくせに、ステータスの参照ができない事である。ゲームで取ったスキルに関しては、どうやって使ってどのぐらい疲れてどの程度の効果があるというのをなんとなく体が覚えているため実用上は問題ないのだが、ゲームの時に最大まで鍛えたもの以外は、今現在どのぐらいと数字で言えないのが不便ではある。
「ん~……」
「東君が、何を気にしてるのかは分からないけど、少なくともこれからしばらくは、私達は運命共同体なんだよ?」
「せやなあ……。まあ、いろいろ作った後やから、今更言うたら今更か。それに、藤堂さんは大丈夫かな……」
「大丈夫、って?」
「昔な、生産関係でいろいろあったんよ。ちょうど休止期間やったから、僕自身は直接関わってへんけど、そのいろいろの絡みで一人、ゲーム自体を続けられへんなったし、嫌気さして生産やめたとかゲーム引退したとかもようさん出たしで、僕も含む職人連中は、自分のスキル開示に一般人より慎重やねん。さっきまでは緊急事態にテンパっとって、不用心に作りすぎた感じやけどな」
いろいろあった、という内容をなんとなく察して、「ごめん」と一つ謝る春菜。
彼女が知っていたのは、高校受験の最中に何かあったらしい、という事だけ。
生産スキルが高い人間の
「とりあえず、藤堂さんは生産スキルの種類、どんだけあるか知ってる?」
「え? えっと、確か……。素材関係が採掘、採取、伐採でしょ? そこから派生の一次加工が精錬、紡織、木工、クラフトだったかな? で、最終製品にするのが鍛冶、裁縫、錬金、製薬、道具製造だったっけ?」
「大体そんなとこやな。付け加えると、最終製品系スキルにはその他に大工、家具製造、造船、土木、アクセサリ作成があって、分類上は生産に入るんが料理、釣り、エンチャント、農業やな」
「料理はともかく、釣りとエンチャントも生産に入るんだ……」
「入るねん。まあエンチャントは魔法系にも分類されとるから、魔法熟練の影響も受けるけどな」
こうして見ると、生産というか製造スキルというのも実に種類が多い。そもそもアクセサリはともかく、大工とか土木、造船などは、春菜にとっては今初めて聞いたスキルだ。
因みに、これらのスキルのうち、釣りと料理はランク分けがなく、その分最大熟練度が高い。
「で、僕がカンストしてへん製造スキルは、料理、釣り、農業、土木の四つで、エクストラスキルを取れてないんがそれプラスエンチャントと家具製造」
「……はあ!?」
「驚く事はあれへん。一次加工までは、普通に上級生産まで届いたら必然的にカンストするタイプのスキルやし、それに製造とか生活系のスキルは初級の熟練度七十を突破したら、一回のログアウトで一種類だけやけど、材料なしでもログアウト中にある程度勝手に上がるし」
「それでも、いくら何でも信じられないよ……」
春菜の表情に苦笑し、他のからくりを説明する事にする。
「藤堂さんがどう思ってるかは知らへんけど、生産スキルって実は、格上狩りをしてる時の攻撃スキルを除けば、熟練度を上げるための累積作業時間が一番短い系統やねんで。ただただ単純に、作業以外の要素が煩雑でシビアなだけで、材料関係の問題が解決すれば、結構上級って上がるん早いねん。それに、一部除いて、ほとんど全部並行で育てへんと、材料が揃わへんし」
「それでも、ねえ……」
「他にもからくりがあってな。初級生産スキル全部を五十まで上げると、メイキングマスタリーっていう、作業時間および作業負荷軽減と成功率上昇、材料の歩留まり向上、採取時の材料増量の効果があるスキルを覚えられるねん。これを覚えると、熟練度向上のための試行回数が跳ね上がるから、ものすごくスキル上げがやりやすくなるんや」
「そんなスキルがあったんだ……」
「あんまり知られてへんっていうか、中級の職人連中でも存在知った時にはスタミナ上がりすぎて、他の初級よう上げ切れんで取得できんかったやつがおるし。まあ、これ取ってから大体二年あれば、材料集めの狩りに付き合ってくれる身内がおるって条件で、藤堂さんが最初に挙げたスキルぐらいは全部上級カンストできるで」
その話と取得条件を聞いて、何ともまあ本末転倒なスキルだと
余談だが宏は、生産職人同士の横のつながりで、採取系を除くなにがしかのエクストラスキルを習得している人間が四十人いる事を把握しているが、そのうち彼を含む十五人が、一般的な生産スキルを全て上限まで上げきっている。
さらに言うならば、エクストラスキル習得数こそ宏が職人中トップだが、エクストラスキル以外の生産スキルを全てマスターしている
要するに、このゲームの生産は、メイキングマスタリー習得が前提になるが、上位に行くほど作業そのものは楽になるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます