ファーレーン編 第一話 (1)
「それで、これからどうする?」
「これから、とは?」
「お金がどうとか、そういう目先の事じゃなくて、この先どうするかっていう事」
「ああ、そうやな……」
昨日は現実逃避的にひたすら
「まあ、最終目的は日本に帰る事でええとして、そのためにどうやって情報とかその他もろもろを集めるか、やな」
手元の石を必死になってすり合わせながらの
「とりあえず、情報を集めるにしても、まずは街に入らないと駄目だよね」
「せやねんけど、中に入るのに税金取られへんとも限らんわけで、せめて少しは金目のもんを用意しとかんと……」
「それは、直接話をして確認してからでもいいんじゃないかな?」
「それでもええんやけど、その前にこのへんの内臓はポーションに加工してまいたいねんわ。この手の素材って、ゲーム中でも時間経過で腐っとったし」
そう言って宏は、昨日ばらした熊の内臓をいくつか指さす。
「何が作れるの?」
「レベル3の特殊ポーションや。レベル5の各種ポーションにも使えん事はないんやけど、入れる瓶を作る材料があらへんし、それにどうもここらでは、ええとこレベル3のポーションぐらいまでしか材料がなさそうやから、特殊ポーションに回す事にしてん」
「特殊ポーションって、どんなのが作れるの?」
「一定ラインより上の強さを持つ熊とか
「一定ラインって、バーサークベアでいけるんだ?」
「熊系は薬の材料に向いててな。まあ、一口に材料言うても結構幅があって、例えばレベル2ポーションやったら基本レシピの素材は五種類ぐらい、応用レシピやとさらに倍、いう感じで組み合わせがあるんや。さらにアレンジで素材の調整入れたら、えらいバリエーションになるし」
何ともアバウトな発言に、それでいいのかと問い詰めそうになる春菜。
それを察したのか、補足説明を入れる事にする宏。
「まあ、言うたら同じような効果を持つ薬を、全部まとめてレベル2ポーションと呼んでるだけやと思うで。現実でも、そういうケースは結構あるやろ?」
「ん~、それはそうかもしれないね。で、さっきから何を作ってるの?」
「即席の乳鉢。これがないと瓶が作られへんから」
「さっきから思ってたんだけど、同じような石同士をすり合わせて、どうして大きい方の石だけ削れるの?」
「ああ。簡易エンチャントで小石の方を強くしてるから。因みにエンチャント中級を習得済みでかつ、道具製造もしくはクラフトスキルの中級以降からできるようになるやり方や」
知らなかった生産関係の情報をいろいろ教えてもらって、感心したように「なるほど」と
「いろいろできるんだね」
「というかむしろ、いろいろできへんと熟練度が上がらへんから」
「大変そう……」
「生産は慣れと根気と諦めと惰性やで」
そんな事を言いながらも、ややいびつながら、実用に耐える程度の形の乳鉢を完成させる。
「それで、
「初級の熟練度十五ぐらいまで。そこで折れて街をぶらぶらする方に行っちゃったから」
「要するに普通ぐらいか」
「うん、普通ぐらい。ごめんね」
「いやいや。みんながみんな中級とか上級とかまでいっとったら、僕の存在意義はあらへんやん」
「そうだね。それに料理と歌は、確実に私の方がうまいみたいだし」
春菜の言葉にそらそうやと返し、脇にそれかかった会話を元に戻す。
「ほな、悪いんやけど、材料集めちょっと手伝ってもろてええ? とりあえず採れるやつでええし、そんなにようさんはいらんから」
「了解。でも、大して練習してないから、あんまり期待しないでね」
「どうせようさん集めても持ち歩かれへんし、しんどくない範囲でええで」
「うん」
宏の言葉に軽く手を振り、適当な茂みの方に歩いていく。そんな春菜を見送った後、
「ほな、いっちょ気合い入れて頑張ろか」
軽く体をほぐすように動いて、自分が言い出した作業に入るのであった。
ざっと穴を掘って適当な石を積み上げ、かまどを作り上げる。
その後、河原で石を選別して集め、乳鉢で砕いてガラスの材料をより分ける作業を延々と続ける。
ある程度の分量を用意し終えたところで、かまどに何やら処理をした薪を大量に突っ込み、単なる薪燃料としてはあり得ない火力の火を起こす。
そのまま即席のかまどでガラスの精製を行い、形を整えて三十本ほど瓶を作り上げ、野営地周辺の植物系素材を採れるだけ集めたあたりで、〝ばてばてです〟、という顔の春菜が、両手で抱え込める限界の量の草や葉っぱを持ってくる。
「こんなもんで、ってガラス瓶がある!!」
「ちょうど今できたところやで」
「作ってるとこ、見たかったのに~」
「それはまた今度っちゅう事で。ついでに鍋も作っといたから、さっさと薬作ってまうわ」
そう言って、材料をすりつぶしたり混ぜたりと怪しげな作業を続け、鍋で煮込んだ物を瓶に詰めていく。
「結構作れるんだ」
「そら、葉っぱとかはともかく、心臓とかがあんだけのかさでこんな小瓶一本とかいうたら、普通に暴動起こるで」
そんな事を言いながら、三種類のポーションを各十本ずつ作り上げ、さすがに疲れたという感じで座り込む宏。
「お疲れさま」
「さすがに道具まで一から作るんはきくわ……」
「私だったら、絶対途中で挫折してるよ」
「というか、やりながら思ってんけど、さっきの口ぶりからしたら、自分歌唱スキル高いんやろ?」
「エクストラスキルがあるから、低いとは口が裂けても言えないかな?」
エクストラスキル、と聞いて、感心したような表情を浮かべる宏。
それを見て、今まで持っていた疑問に対して、ある確信を持つ春菜。だが、それを問い詰めるのは後回しにして、宏の言いたい事を最後まで聞く事にする。
因みに、エクストラスキルとは、特定の条件を満たした上で、専用のクエストをクリアする事で得られる、人知を超えた性能を持つスキルの事だ。
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