ファーレーン編 プロローグ (4)


    ☆


「藤堂さんも、文字化けメールが来たんか」

「東君も、か……」

「僕の時は、転送石が最後のトリガーやったみたいやけど、藤堂さんは?」

「私は、ウルス東門の転移ゲートをくぐろうとした時」

 熊の解体を終えた二人は、肉を分け合ってざっと調理し、それで腹を満たしながら転移直前の状況を確認し合う。

 やはり、会話をするには結構距離を空けていて、しかもいまだに身構えている様子があるが、そういうものだと理解した春菜は特に突っ込みも入れない。

「何ぞ巻き込むだけ巻き込んどいて、装備もアイテムも金も全部チャラとか、ものすごく不親切な話や」

「だよね。しかも、安全地帯を探してたら、いきなりバーサークベアだし……」

「藤堂さん、案外ついてないんやな」

「本当にね……」

 宏と出会った時の状況を思いだして、しみじみとため息を漏らす。

 宏と同じようにここに飛ばされてきた春菜は、安全地帯を探している最中に熊に襲われ、パニックになって全速力で逃げだしてしまった。どれほど身体能力があったところで、パニックを起こしていればその能力を十全には発揮できない。

 結局、少し走ったところで石につまずき足をもつれさせて、巨大熊に追い付かれそうになったというのが先ほどの状況である。

 戦闘自体は、がくがく震えながらも懸命に相手の攻撃を受け止めて見せる宏を必死に補助魔法でフォローし、ゲームでの初期装備である貧弱なナイフで二人がかりで攻撃して、どうにか多少の怪我ぐらいで急場をしのいだ。幸か不幸か能力とスキルだけはゲームのそれと同じだったらしく、貧弱な初期装備でもボス熊ぐらいは余裕で始末できたのである。

「今にして思えば、別にこの貧弱なナイフでも、あれぐらいソロで始末できたんだよね……」

「そうやな。ありがたい事に、レベルとスキルとパラメーターは、ゲームからそのまま引き継いどるみたいやし」

 さっきの戦闘と、その後の治療の事を思い出してうなずく。

 実際、バーサークベアは初心者殺しのフィールドボスだが、中堅ぐらいのプレイヤーキャラから見れば、ダンジョンの雑魚より劣る程度の相手でしかない。


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