第三話 おっさん、少女の悩みを解消す (2)

「完了しました……では、『燃えよ、灯火、我が道を照らせ』……【灯火トーチ】」

 セレスティーナの指先に小さな魔法陣が形成され、僅かな火が灯った。

灯火トーチ】と言うには弱いが、それでも確かに魔法が発動したのである。

「やりました。御爺様! 本当に魔法が使えましたよ!! 噓みたい」

「おぉ……確かに……。良かったのぅ、ティーナ……」

「ローソク程度の火だけど、初めて発動したのだからこんなものでしょう。その火をそのままの火力で一定に保ち続けると、魔力操作を覚えられる筈です」

「やってみます。あっ、あぁ!? 火が消えちゃう」

「魔力を少しずつ送り続ける操作は難しいから、少しの風でも消えてしまいますので注意して、意識を集中させた方が良いですよ」

「今度は火が大き過ぎますぅ~!? これは難しいですよぉ!」

「そういう訓練だからね? 後は魔力が枯渇するまで続ける事が重要かな。休めば魔力は回復しますし、回復すればまた訓練が出来ますので特に問題はないでしょう」

 ゲームの世界と同様にステータスを見る事が可能なのだから、この世界の住人も自分のスキルでステータスを確認出来る。レベルを上げるにしても魔物と戦う事により格を上げ、今よりも更に強くなれるが、まだ年端もいかない少女では苦しいところであろう。

 そうなるとスキルを覚えて自身を高める事が重要となってくる。

 魔力を消費する事で僅かにでも自身の魔力も上がるのだから、スキルも覚えられて一石二鳥なのである。訓練を継続する事により、スキルレベルも上がる事に繫がる。

「ほう、良く考えた訓練じゃが、これは毎日続ける必要があるのではないか?」

「そうですね。訓練は続ける事により効果が出てくるものですから、常に日課として身に沁み込ませる必要がありますけど、覚えたら後は鍛錬で実力を付ける事が可能です。魔導士に必要な訓練の一つですよ」

「やります! 魔法が使えたのですから、この程度の事など乗り越えてみせます」

「ティーナが燃えておる……。このようにやる気に満ちた表情はいつ以来か……(ハァハァ……)」

 爺さんも萌えていた。爺馬鹿にしても色々問題がありそうだ。

「身体強化魔法を自分に掛け続ければ、同様の効果と魔法耐性のスキルが覚えられたかなぁ? 前にやっていただけだから既に忘れていたし、これで良い筈……あれぇ~?」

「それも、やってみたいです!」

「そう来ると思って、二つ目の魔法は身体強化なのですが……これは、もう少し魔力の量を増やした方が良いかもしれませんねぇ。【灯火トーチ】よりも魔力を使うから、直ぐに倒れそうな気がする」

 ゼロスは鑑定を使い、彼女のステータスを覗き見ていた。その結果出たのがこれである。

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【セレスティーナ・ヴァン・ソリステア】レベル5

 HP 125/125 MP121/140

【職業】貴族のお嬢

【スキル】

 火属性魔法 1/100

【身体スキル】

 我慢 50/100

【個人スキル】

 忍耐 50/100

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 魔力は消費し続けており、徐々に0に近付いている。

 しかし、これが訓練なら彼女にとっては喜ぶべき試練であった。何しろ、今まで魔法が使えなかったのだ。そこから解放された事により彼女は嬉々としてこの訓練に挑んでいる。

 今が楽しくて仕方がないといったところなのだろう。

『どうでも良いですが、我慢と忍耐のレベルが高い……そんなに辛酸を舐めていたのか?』

 教本の術式を最適化作業をしながらも、ゼロスはそんな事を思っていた。

 彼女は妾腹の生まれであるために邪魔者扱いで、虐めすら受けていた。

 不憫な子である以上に、彼女は貴族として認めてすらもらえなかったのである。無論、ゼロスはそんな事を知らないが、このステータスからある程度の事は察する。

「さて、二十七ページ目……【アイス・ランス】か」

「「早っ!?」」

 元より基本魔法の術式はベースが守られているので、後は要らない部分の削除と簡単な制御術式を組み込むだけで済む。かつての世界ではプログラマーであったため、この手の作業は鼻歌交りでこなせるのだ。

「では、僕がこの教本の術式を改良するのが早いか、君の魔力が尽きるのが早いか競争してみましょうか?」

「む、負けませんよ?」

「ゼロス殿が不利な気がするが、これはこれで面白そうじゃな」

 正直、この爺さんは勝負の勝敗などどうでも良かった。単に久しぶりに見た孫娘の明るい表情に浮かれているだけなのである。


 結果はゼロスの方が早かったのだが、華を持たせるために敢えて負けてあげた。

 おっさんは子供に優しい男であった。

 そして、喜ぶセレスティーナを見てホクホクの爺さんであった。

 こういうところは駄目な人のようである。

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