第3話 少女との接触

 これはその魂自体が初めてアリシアと接触した時の出来事である。


 エドを器としたその魂は【モル】という植物を探しに森に来ていた。エド自身、力には自信があった。それは今まで生きてきた器のスキルを受け継いでいるからである。また戦闘経験もあった。


 しかし、それは過信だった。


 森の深層部での出来事であった。エドはつぶやく。


「これが魔物と人間の違いか」


 オークの群れに囲まれエドは尻もちを付き、木にもたれかかっていた。戦闘に敗北したのだ。


「ブヒヒ」


 緑色の肌に、全身筋肉であろう巨体。そして、大きな鼻からは生暖かい風が、口からは粘着質なよだれが。


 二本の太い腕をエドに近づけ、不敵な笑みを浮かべるオーク。エドはその腕を掴むが、徐々に押し負けてしまう。


 【剛腕Ⅱ】自身の腕力をあげる。


 オークが持つ【剛腕1】の進化系スキルだった。エドは下位互換であるそのスキルに勝てると確信していたが、人間の体の基礎能力が低いことをわかっていなかった。スキルによって強化された腕力だが、元は人間の力である。それゆえに敗北した。


「伏せて!」


 女性の緊迫した声と共に目の前のオークが火によって焼かれる光景が目に映る。これは魔法だ。その魂は、前世に何度か似たことのある光景だった。一度目はゴブリンに転生した時にメイジゴブリンと言われる個体が放ったモノだった。今、目の前に放たれた魔法もそうだろう。


「何してるの早く逃げて!この人数は相手にできないわよ!」


 その女性は二人の男と共にエドの前に立ち交戦している。エドはその女性の言葉により、我に返り、立ち上がった。


「二度目はない」


 そう呟き、【俊敏Ⅰ】、【剛腕Ⅱ】、【物理攻撃上昇Ⅰ】、【痛覚軽減Ⅱ】と三つのスキルを発動させ、目の前で交戦しているオークたちの下に滑り込む。


「ちょ、敵の中に入ってどうするのよ!」


「馬鹿!何のためにアリシアが割り込んだと思ってる!」


 そんな男女の注意の中、エドはオークの足首を掴み勢いと共に引きずった。それと同時にオークは体勢を崩し、地面にたたきつけられる。


「ありがとう。もう大丈夫」


 エドはお礼をいい、ほかに迫りくるオークの下半身を狙い攻撃を集中させた。主に足首だ。エドは一度オークになったことのある経験から重い図体を支えている足首に目を付けたのだ。足首は主に骨で構成されており、多いに筋肉を鍛えることができない。


 合計六体のオークを視界の悪い下から翻弄し、足首を掴み引きずり、また、死角になった上半身を狙い、首に重い一撃を与えた。


「す、すごい・・・」


「なんだあいつ!なんでやられてたんだ!」


 オークたちにとどめを刺し終えたエドに三人の男女が近づく。


「二度目だけど、ありがとう。助かったよ」


「い、いいのよ。私の勝手な判断だったし。それに助けに行かなくてもエドなら大丈夫だったでしょう?さっきの戦いを見る限り」


「そんなことないよ。僕だって油断してた」


「な、ならよかったわ。ほらこれ」


 そういうと女性は一つの緑色の液体が入った瓶を取り出した。エドは不思議そうにそれを見つめる。


「もしかして知らないの?ポーションよ。飲めば傷が癒えるわ」


「あ、ありがとう」


 エドは疑いつつ瓶を受け取り、口にした。すると傷が癒えていくのが目に見えてわかった。


「液状にして飲みやすくしているのか。調合によって薬草をそのまま飲むより、効率もいい。それに瞬時に呑むのなら液体のほうが優れているな」


「何をぶつぶつ言ってるの?どうかしら、痛みは引いた?」


 その時、エドはモルを調合し、ポーションにしようと決めた。自身の世界に入り込んでいるエドに女性は「おーい」と声をかけ、肩を叩いた。


「う、うん。すこし驚いてね。固まってたよ」


【痛覚軽減Ⅱ】によってある程度痛覚はなかったが、少しばかりの痛みが引いたことが分かった。そして、スキルを解除させた。


「ならよかったわ。それにしてもポーションを知らないなんて。いままでどうやって戦ってきたのよ」


「いや、初めて戦ったよ。だから油断した」


「おいおい、初めての戦いで油断するってお前肝が据わってるな!まあ、アリシアに感謝しな!」


 一人の男性が会話に入り込む。そして笑いながらエドの背中を叩いた。


「ありがとう」


「いいのよ。困ったときはお互い様だしね」


 エドは先ほど自身の名前を呼ばれたことに気づき、器の記憶を覗いた。


 この女性はアリシアというのか。どうやら同じ村の出身らしい。


「アリシア、この人たちは?」


「あ、紹介してなかったわね。隣町のギルドの仲間よ」


「おう、俺はバルだ!この無口なのはカーキ。お前さんは?ってもエドだったっけな?」


「うん。よろしく」


「ああ」


 その後、一緒に森を抜け、オークの素材を売るために隣町までやってきた。そしてギルドへと足を運んだ。


 いち早く、【モル】を回収し、ポーション制作に取り掛かりたかったが、エドはこのアリシアという女性が気になり、ついていくことにしたのだ。あの状況で、危険を冒してまで助けてくれた相手だ。気にならないはずがなかった。


 その後、一緒に冒険をすることはなかったが、アリシアとはよく会っていた。純粋な彼女に魅かれていたのだ。


 現在保有スキル


【記憶】【俊敏Ⅰ】、【剛腕Ⅱ】、【物理攻撃上昇Ⅰ】、【物理防御上昇Ⅰ】、【痛覚軽減Ⅱ】、【毒体制1】、【麻痺体制Ⅱ】【嗅覚Ⅱ】


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