第四話「師匠」 (4)
★ ★ ★
四ヶ月ほど経った。
中級までの魔術は使えるようになった。
ということで、ロキシーと夜の座学をすることになった。
おっと、夜のって付いてるからってエロいことをするわけじゃないぞ。
勉強するのは、主に雑学だ。
ロキシーはいい教師だ。
決してカリキュラムにこだわりを持たない。
俺の理解度に合わせて、授業の内容をエスカレートさせる。
生徒への対応力が高いのだ。
教科書用に用意した本から質問を出して、俺が答えられれば次に行く。
わからなければ丁寧に教えてくれる。
それだけのことだが、俺は世界が広がるのを感じた。
生前、兄が受験の時、家庭教師を雇っていた時期があった。
俺も、一度だけ気まぐれでその内容を聞いたことがある。
だが、学校の授業の内容とそう変わるものではなかった。
それに比べて、ロキシーの授業はわかりやすく、面白い。
打てば響く授業だ。
ていうか、性に芽生え始めた中学生ぐらいの先生に勉強を教えてもらう。
そのシチュエーションが最高だ。
生前の俺なら、そんな妄想だけで三発はイケたね。
★ ★ ★
「先生、どうして魔術には戦闘用のものしかないんですか?」
「別に戦闘用しかないわけではないのですが……」
俺の唐突の質問にもロキシーはきちんと答えてくれる。
「そうですね、何から説明しましょうか……。まず魔術というのは、
おお、エルフ!!
やはりいるのか!!
金髪で緑っぽい服を着ていて弓を持っていて触手に絡め取られる人たち!!
おっと、落ち着け。
俺の認識と違うかもしれない。
字面を見るに、耳は長いようだが……。
「
「はい。
ロキシーの話によると。
大昔、まだ人魔大戦が起きる前、世界がまだ
「へえ、ちゃんと歴史があるんですね」
「当然です」
ロキシーは、茶化すなと言わんばかりに
「今の魔術というのは、人族が戦争の中で
「人族はそういうのが得意なんですか?」
「ええ、新しいものを生み出すのは、いつも人族です」
人族は発明大好きな人種らしい。
「戦闘用しかないのは、主に戦いの中でしか使われてこなかったというのもありますが……。魔術に頼らなくても、身近なものを使えば実現できるという理由もあります」
「身近なもの、というと?」
「例えば明かりが必要なら、ロウソクやカンテラを使えばいいでしょう?」
なるほど、よくある設定、ってやつか。
魔術を使うより、道具を使ったほうが簡単だから。
理にかなってるぜ。
もっとも、無詠唱なら道具を使うより簡単なんだがね。
「それに、全ての魔術が戦闘用というわけではありません。召喚魔術を使えば、必要に応じた力を持つ魔獣や精霊を召喚することもできますし」
「召喚魔術!! そのうち教えてもらえるんですか?」
「いえ、わたしには使えませんので。それに、道具というのなら、魔道具というものも存在します」
魔道具か。
字面からなんとなく想像がつくな。
「魔道具というのは?」
「特殊な効果を持つ道具です。内部に魔法陣を刻んであるので、魔術師でなくとも扱うことができます。もっとも、ものによっては大量の魔力を使いますが」
「なるほど」
大体想像どおりだ。
それにしても、ロキシーが召喚魔術を使えないのは残念だ。
攻撃魔術や治癒魔術はなんとなく原理がわかるが、召喚魔術は何をどうすればいいのかわからない。
それにしても、知らない単語が一気に増えたな。
人魔大戦、魔獣、精霊……。
大体わかるけど。一応聞いておくか。
「先生、魔獣と魔物はどう違うんですか?」
「魔獣と魔物は大きくは違いません」
基本的に魔物というのは従来の動物から突然変異で生まれる。
それが運よく数を増やして、種として定着し、世代を重ねて知恵をつけたのが魔獣だ。
もっとも、知恵をつけても人を襲うようなのは魔物と呼ばれることも多いらしい。
逆に、魔獣が世代を重ねて凶暴になり、魔物に戻るケースもあるとか。
具体的な線引きはないそうだ。
魔物・人を襲う。
魔獣・人を襲わない。
という認識でいいのか。
「というと、魔族は魔獣が進化したものなんですか?」
「全然違います。魔族という単語は、大昔に人族と魔族が戦争をしていた頃につけられた名称です」
「さっき言ってた、人魔大戦ってヤツですか?」
「そうです。最初の戦争があったのは七〇〇〇年ぐらい前ですね」
「それはまた、気が遠くなるぐらい昔ですね」
この世界は、わりと長い歴史を持っているようだ。
「そう昔でもないですよ。つい四〇〇年前にも、人族と魔族の間で戦争をしていましたからね。七〇〇〇年前に始めてから、休み休みずっと戦争してるんですよ、人族と魔族は」
四〇〇年でも十分昔だと思うが、しかし七〇〇〇年以上も争い続けているのか。
仲悪いねえ。
「はぁ、なるほど。それで結局、魔族というのは?」
「魔族というのは、結構定義が難しいのですが……」
もっとも、例外もあるそうだが。
「あ、ちなみに私も魔族です」
「おぉ、そうだったんですか」
魔族がここで家庭教師をやっている。
てことは、今は戦争してないってことかな?
平和が一番。
「はい。正式には魔大陸ビエゴヤ地方のミグルド族です。ルディの両親も、わたしの姿をみて驚いていたでしょう?」
「あれは先生がちっちゃいからだと思っていました」
「小っちゃくありません」
ロキシーはムスッした顔で即座に言い返した。小さいことを気にしているらしい。
「あれはわたしの髪を見て驚いていたんです」
「髪?」
青くて
「魔族は一般的に、緑に近い髪色を持つ種族ほど凶暴で危険だと言われています。特にわたしの髪は、光の加減では緑に見えなくもないですから……」
緑色。
この世界の警戒色なのだろうか。
ロキシーの髪は目が
彼女は自分の前髪をくるくるといじりながら説明してくれている。
仕草が可愛い。
日本で水色の髪といえば、パンク系かオバちゃんと相場は決まっているものだ。
そういう人らを見ても、俺は不自然さと嫌悪感しか抱かない。
だが、ロキシーの青髪は不自然さが全然なく、嫌悪感を抱かない。
むしろ、ロキシーのちょっと眠そうな目によく似合っている。
エロゲーのヒロインにいたら、最初に攻略するぐらいには似合ってる。
「先生の髪は綺麗ですよ」
「……ありがとうございます。でも、そういうことは将来好きな子ができた時に言ってあげてください」
「僕、先生のこと、好きですよ」
迷わず言った。
俺は迷ったりしない。
可愛い子には全員に粉をかけるのだ。
「そうですか。あと十数年した時に考えが変わらなかったらもう一度言ってください」
「はい、先生」
あっさりスルーされたが、ロキシーがちょっと嬉しそうな顔をしていたのは見逃さない。
エロゲーで鍛えたナイスガイスキルが異世界でどれだけ通用するかはわからない。
けど、まったく無意味というわけではないらしい。
日本では使い古されて冗談のように聞こえる小っ恥ずかしいセリフも、この世界なら情熱的でユニークな恋の導火線だ。
うん、何言ってんのか自分でもワカンネ。
ロキシーは可愛くてエッチだからフラグ立てときたいな。
でも年齢差が結構あるよね。
将来的にどうなるかな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます