第四話「師匠」 (3)
★ ★ ★
午後はパウロと鍛錬だ。
俺の体格にあった木剣がないため、基本的には体作りが中心となってくる。
ランニング、腕立て伏せ、腹筋、などなど。
パウロは、とりあえず最初は体を動かす、ということを中心にやらせるつもりらしい。
パウロが仕事で指導ができない日も、基礎体力訓練だけは毎日欠かさずやるように言いつけられた。
そのへんは、どこの世界でも変わらないらしい。
頑張ろう。
子供の体力では午後全部を使って鍛錬をするわけにもいかないので、剣術は昼下がりまでには終了する。
そのため、俺は夕飯までの間に、魔力を使い果たすまで使う。
魔術というものは『大きさを変化させる』と使用する魔力量が変わる。
詠唱した時に何も意識しない時を一とすると、大きくすればするほど加速度的に消費魔力が増えていく。
質量保存の法則ってやつだ。
しかし、なぜか逆に小さくすることでも消費魔力が増えるのだ。
この理論はよくわからない。
こぶし大の水弾を作り出すより、一滴の水を生み出すほうがはるかに魔力を消費する。
おかしな話だ。
前々から疑問に思ってみたのでロキシーに聞いてみたら、「そういうものだ」と返された。
解明されていないらしい。
仕組みはわからない。
しかし、訓練を行うに関しては、その仕様も悪くはない。
最近は魔力総量が結構増えてきたので、大きな魔術を使わなければ消費しきれないのだ。
魔力を使うだけなら、力尽きるまで最大出力でぶっぱなせばいい。
だが、そろそろ応用力をつけていっても良いだろう。
なので、できる限り細かい作業を練習することにした。
魔術で小さく、細かく、複雑な作業をするのだ。
例えば、氷で彫像を作ったり、指先に火を
庭から土を持ってきて成分を
錠前の
土の魔術は金属や鉱物にもある程度作用するようだ。
ただし、金属の種類が硬くなればなるほど、消費される魔力が大きくなった。
やはり硬いものを変化させるのは、難しいらしい。
操作する対象が小さくなればなるほど、細かく複雑に、かつ正確に素早く動かそうとすればするほど、消費する魔力の量が
野球ボールを全力投球する。
針の穴にゆっくりと糸を通す。
この二つで同じぐらいの魔力を消耗するといった感じだ。
また、違う系統の魔術を同時に使用するということもやってみた。
同じ系統を同時に使うのに比べ、三倍以上の魔力を消費するようだ。
つまり、二種類の系統の魔術を同時に発動し、小さく細かく素早く正確に動かせば、簡単に魔力を全消費することができた。
そんな毎日を続けていたら──
半日以上、魔術を使い続けても、まったく底が見えなくなってきた。
もうこれくらいで十分か、そんな気持ちが芽生える。
俺の怠け者の部分が、そろそろいんじゃね? と
その度に、俺は自分を
筋トレだってちょっとサボったら体が鈍る。
魔力だってそうかもしれない。一時的に増えたからって訓練を欠かしてはいけないのだ。
★ ★ ★
夜中に魔術を使っていると、どこからかギシギシアンアンと悩ましい音が聞こえだした。
どこからかもなにも、パウロとゼニスの寝室に決まっている。
お盛んだ。
そう遠くない未来に、俺の弟か妹が生まれることだろう。
できれば妹がいいな。
うん。弟はいやだ。
俺の脳裏には、俺の愛機パソコンにバットをフルスイングする弟の姿が残っている。
弟はいらない。
「やれやれだぜ……」
生前なら、こんな悩ましい音を聞いたら、即座で壁ドンか床ドンして黙らせたものだ。
おかげで姉は家に男を連れてこなくなった。
懐かしい。
当時、ああいうことをする奴らは、俺の世界を黒く塗りつぶす巨悪に思えた。
俺をイジメてた奴らが、俺の決して手の届かない領域からアホ面して見下ろしてるような気がして、やり場のない怒りが襲った。
暗く不快な場所に落とした張本人が、お前、まだそんな所にいるの? と、見下してくるのだ。
これほど悔しいことはない。
しかし、最近は違う。
身体が子供になったせいか、ヤっているのが両親なせいか、あるいは自分自身で未来に向かって努力しているせいか。
二人の営みを、すげー
フッ、俺も大人になったもんだぜ……。
音だけ聞いていると、なんとなく内容もわかる。
どうやら、パウロはかなりお上手らしい。
ゼニスの方はあっという間に息も絶え絶えノックダウン状態になっているのに、パウロは「まだまだこれからだぞぅ」とか言って攻めつづけている。
陵辱系エロゲの主人公みたいな男だ。
底知れぬ精力……。
ハッ、もしかしてパウロの息子である俺のムスコにもそんなパワーが秘められているのでは!?
ヒロインはよ!!
俺にもピンク色の展開を!!
と、最初の頃は興奮していたが、最近では枯れたもので、ギシギシと
ちなみに、部屋の前を歩くとギシアンがぴたっと止まるので、結構面白い。
その日も、歩けるようになった息子がいるということを知らしめてやるべく、トイレへと向かった。
どれ、今日は一つ、声でも掛けてやるか。
おとーさん、おかーさん、裸でなにしてるの? とか聞いてみるか。
言い訳が楽しみだぜ。ククク……。
そんなことを考えながら、音を殺して部屋を出た。
そこには先客がいた。
青髪の少女が、暗い廊下に座り込んで、ドアの
その手は、ローブの下へと潜り込んで何やら悩ましげな動きを見せていた。
俺はそっと自室へと戻った。
ロキシーとて年頃の娘である。
彼女がこのようなアレにふけるのを、見てみぬふりをする情が俺にも存在した。
……なんちゃって。
いやぁ、いいものを見た。
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