161試合目 結城

「ななな何の用ですか……。お金なら持っていません!!」

 言葉とは裏腹に財布から1000円札を取り出す。全身が震えているせいかしゃべる言葉にも自然とビブラートがかかっている。

(この人……。もしかして変な人か??)

 座って何かをやっていた彼女。そしてそれに急に話しかける後輩の面識のない俺……。

「いや変なの俺だわ!」

「っへぇ!???」

 急に大声をあげたからだろうか。その声にびっくりして声にビブラートだけでなく体もバイブレーションのように痙攣している。

「すみません。急に大声上げて……」

「いいいいいえ……。だだだだだだ大丈夫ですからららっらら」

 うん。大丈夫そうではなさそうだ。


 少し深呼吸をしてもらったところで会話に戻る。

「初めまして。俺、西屋敷徹って言います」

「私は結城です……。で、なんの用でしたか……」

 栄養をしっかり取っているのか不安になるくらいの細い声。びっくりしてた時の方が声が大きいのではなかろうか。

「実は先輩に折り入ってお願いがあります。   俺にカメラを教えてはくれないでしょうか??」

「へ??」

 結城は少しばかりか目を見開いたかと思えばすぐに元の表情筋が死んだ顔に戻った。

「カメラ……?? なんで私に??」

「それは、あのボケカスの動画を撮っているのは結城さんだと聞きました」

「ぼけか……??? ああ、月島くんか……。言わないでって言ったのに。 でもなんで私なの??」

「あれほど引き付けられるカメラワークはあまりないですよ。何か勉強でもされているのですか??」

「まあ……少しかな。全然すごくはないよ」

 見た目通りの謙遜の具合だ。しかしそれが結城さんの性格の良さを表していた。

「それでも。俺はいいと思いました!! よければなのですが、カメラの使い方を教えてください!!」

 彼女は少しばかり悩むようなしぐさをした。

「わ、わかりました……。すこしならいいですよ」

 すごい。こんな時でも表情が変わらないなんて……。じゃなくて

「本当ですか!! ありがとうございます」

 こうして俺は師匠を見つけることに成功した。

「でも今日はもう時間がないからまた明日運動部に顔を出すことにするよ……」

「わかりました。ありがとうございます」

 こうして俺は結城さんの教室から離れた。


 そして運動部に戻ると、

くんくん……。くんくん……。

 紫に匂いをかがれていた。

「あの……紫。俺そんな変なにおいするかな??」

「別の女の匂いがする!!」

 いや、別に結城さんには触れてないから気のせいだよ……。

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