149試合目 言わなければならない。
結局俺の言いたいことは言えなかった。電話は大したものではなかったけど、変な間で止まってしまったな……。
「それでさっきは何を言おうとしたの??」
俺は今言うか言わないかを悩んでいた。もしかしたらこの電話は言わないほうがいいという神からのお達しなのかもしれない。とまで考えてしまう。
「いや……」
俺は言うの遅らそうと考え、視線を上げたその瞬間。俺の目に映るのはどんな言葉でも受け止めるといわんばかりの彼……いや彼女の表情だった。
その時俺は、考えた。受験とか、今は……とか、全部俺のわがままのためのものだったのではないかと。逃げるための言葉ではないのかと。
そして人が息を吸うように、生き物が動くように。俺の口からそっと出た。
「紫、俺はお前のことが好きだ」
これは本音。それでもってこれが俺の想い。
「えへへへ。やった」
他人の目とか、他の人の気持ちとかではないのだ。
紫は少しも驚くそぶりを見せずに静かに喜びをかみしめた。
「いつから……そう思ってくれたの??」
「いつから……ってのはないよ。ただ……いつの間にかだ」
そう、今日を俺はいつまでも忘れない。紫……
「返事は……」
俺の言葉を遮って彼女はいう。
「そんなのもちろん……いいに決まってるでしょ」
どれだけ待たせただろう。待ってくれただろう。それでもそういってくれた彼女を忘れない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああ」
柚希が壊れた。
家に帰り、本当のことを打ち明けると柚希が脳を溶かしたかのようにその場でバイブレーション機能かの如く震えだした。
こういう場合誰に診てもらえばいいのだろうか。
「すまないな。柚希……これが本音なんだよ」
「ま、ま、まさか……!! 紫さんを選ぶとは……!!! 私も……!!! 私も……!!!」
俺は頭を撫でる。すると柚希の瞳からは多くの涙がこぼれた。
「私が……!! 私が一番……!! 好きだった……!!! のに……!!!」
正直胸が痛い。これが逃げ続けた俺への報いだろうか。そんなことを考えると俺まで涙がこぼれた。
「ごめん……。本音なんだ……。ごめん」
「兄さんのばか!!! 大馬鹿!!! ばかあ……」
それは俺の心に強く刺さった。
数日後それは柚希以外のものにも伝わった。
「徹がね~。まさか、私以外を選ぶなんて。そういえば……私を助けてくれたのもあの二人だっけ……だからかなぁ……こんな……気持ち……に……なるのは……」
鈴は一人、教室で座り込んだ。
「とおくん……」
もちろん鈴にも伝わる。
しかし全員同じことを思っていた。誰が選ばれようと“祝福”をしようと。
これが始まりだったな。俺たちの部活、運動部は……。
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