143試合目 遊びはマジでやります。

「す、すごい!」

 三年になり課題や勉強に追われる者たちのフラストレーションはこのバスケットボールに全てぶち込まれる。

 その威力は彩花では到底出すことができない。それゆえにあの彩花が死にもの狂いでやっと追いつけるレベルだ。

「はあ……はあ……」

 そのせいか彩花の息はまるで走る脚と同じ速度といってもいいくらいのスピードに荒くなっていく。

(しんどい!!! 僕はかなり運動ができる方だと思っていたのに!! 先輩も先輩だ……!!

これで普通とかどんだけ自分に厳しいんだよ!!)

 西屋敷のプレイは確かに普通。だが基礎がしっかりしている分丁寧な動きになる。

 それが彼に強みとなっていた。

(動きは丁寧!!! 読みやすい。なのに……!!! なのに……!! 追いつけない!!)

 身体能力は基礎練を繰り返したおかげでとても高い。本人は普通というがこれは一般男子高校生では到底辿り着くことはできないほどのスピードを生み出す。

 それもこれも春馬を追いかけ続けた影響だろう。彼にとって普通が終わる瞬間は春馬を抜いた時だけだ。

「行くよ? 西屋敷」

「行かせねえよ。バカが」

(兄さんが怖い……?? それぐらいの集中力と緊張感がここまで伝わる。背筋も凍って鳥肌が全身にぶあっと立つ……!! どうなるんだろうか)

 外から見ていた柚希でさえその緊張感を感じとっていた。

 ここからは怒涛の攻防だった。例えるなら基礎に忠実なプロバスケプレイヤーvs天才ストリートバスケプレイヤーの戦いを見ているようなものだった。

 春馬の動きはトリッキー。紫でさえ追うのに苦労するのにそれに平然と着いていく西屋敷。

「ははは!! だから西屋敷はやめられない!!!!」

「うるせえな……!! くっはああははは!!」

(うわー、僕まで空気扱い?? 徹君……妬いちゃうな? 本気出すかあ)

 紫が急に殺気を纏い始めた。あれだ。バーサーカーモードだ。

「てめえらぶっ潰してやるよ!!!!」

(嘘でしょ!?? これ以上加速するの!??? ダメだ……。私じゃ追いつけない!!!)

 彩花はすでに諦めに入っていた。

「ははは!!!」

「くはああ!!」

「おらあああ!!」

 三人の攻防がその場の空気を支配する。

(っていうか春馬先輩1人でこれやば!!!)

 ほぼ1人と言ってもいい春馬が同時に2人を相手に引けを取らないのはさすが魔王といったところだろうか。

 2チームが本格的にぶつかろうとしたその瞬間、ぴぴぴと音が鳴った。

「もう終わりか!」

「ふう」

全員の肩の力が抜ける。

最終結果は

34-35

「お!! 俺のかちだぁ!!

化け物だ......。

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