138試合目 決勝4〜期待を上回る獣〜

「どうした?? 終わりか??」

 きっと内心は余裕などないだろうビオラは彩花を深く煽り『余裕だぞ』と言わんばかりに笑みを浮かべた。

「ふう……ふう」

 それに対し彩花は噛み付くことはなく息を整え痛みを分散することに集中していた。

「ほほう......」

 それを察したかのようにビオラは体から力を抜く。

 その時彩花は心の中にいた。


(勝てないかもしれない。でも諦めない)

なんだい?? ただの球技大会じゃないか?? 諦めなよ。

(そんなことするわけないだろ)

諦めなって。今体を壊したら今後に支障が出るよ?? いいじゃないか。

 彩花は心の自分を守るためのセーフティと会話という名の葛藤をしていた。

(だけど......!!!)

今体を壊して一生を過ごすか、体を壊さずまた挑むかそれを選ぶのは…明白だよね?

(......そうかもしれない)

なら......

(それでも!!!! それでも!!!! 今諦めて仕方なかったって心を押さえ込み、信念を砕くくらいなら!!!! 体をぶっ壊す方がマシだ!!!!!)


「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 彩花が最後の力を振り絞らんとして雄叫びを上げたその瞬間だった。彼女は横に倒れていた。

 彩花自身もなぜそうなったかわからない。しかし彩花が上を見上げるとそこには春馬がいた。

「「春馬!???」」

 俺とさくらは突然のことに焦りを隠せなかった。

「春馬先輩……なに......するんすか......!」

「彩花ちゃんはバカだね?」

「は???」

 突然のことにアドレナリンの高まっていた彩花は苛立ちを見せる。

「バカってどういうことすか? どういういm……」

「バカだよ。君の友達が言ってくれたんじゃないのかい?『無理はしてもいいけど無茶はするな』ってさ」

「無茶してな!」

「してるよ。それも想像以上に。君を心配するのはなぜだと思う? 君が大切だからだよ。大切だから優先もした。大切だから心配もした。それを裏切るなんて君は……大馬鹿野郎だ!!!!」

 春馬が言ってることは間違いなく正しい。しかし彩花の気持ちも充分にわかる。

 だからこそ誰も、試合中に飛び出した春馬を止めなかった。

「でも……勝てないとみんなの期待を裏切ることに……」

「完璧主義者はやめてよ!!!」

 先ほど彩花の無理を尊重した女子がいう。

「え……」

「私は確かに勝ちたいという気持ちもある! あるけどさ!!! 勝っても友達がボロボロだったら何も喜べないよ!!!! お願い!! もう……やめてよ……お願い……」

 彼女は溢れる気持ちを抑え切ることが出来ずに、泣きながら彩花にしがみついた。

「……」

「これが周りの気持ちだよ。彩花ちゃん。背負わなくたっていいんだ。俺もそれは西屋敷から教えてもらった」

「すいません、ビオラ先輩……。今回は降参します……」

「そうか」

 そういうとビオラは彩花の頭を撫でながら抱きしめこう言った。

「引く判断できるお前は強い。俺が認めよう」

「うぅ……!! うわああああぁあぁああん」

 彩花の顔はよく見えなかったが、ビオラから離れた時、目や鼻が真っ赤に染まっていた。

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